綱吉は、雲雀の家に向かった。その途中に、あの喫茶店があることに気づいた。
リボーンは、俺を覚えていてくれるのだろうか。
店に寄り道をする。小銭は持っていた。バジルという男のものだったが、仕方がないだろう。
綱吉は、エスプレッソコーヒーと一言頼んだ。 リボーンは、軽く驚いたように目を丸め、おうよ、と返事をした。あぁ、いつものリボーンだ。彼は悲しんでない。不機嫌そうな様子はいつも道理だ。 やがて、テーブルの前に置かれたエスプレッソコーヒーをみて、綱吉は一気に飲みほした。いつもこうしていた。エスプレッソコーヒーには何も入れない。 ブラックのまま。大人になった気分で最初は飲んでみたが、苦くて濃いその味に舌がしびれた。 ちびちびと飲むと、余計におかしくなりそうだったので、いつも一気に飲んでから、紅茶やジュースを頼んでいた。ムキになっていたのだと思う。 綱吉はそれが習慣になっていた。そして、別のメニューを頼んだ。お前…。リボーンは綱吉の様子を見て、手を止めた。バジルという男が綱吉にそっくりに見えた。
綱吉を知っているのか、と静かに彼は聞いてきた。知っています。綱吉はそう答えた。お前はどういう関係だったんだ。綱吉は、生前、彼とは仲がよかったんです。と当たり障りのない答えを出した。 そうか、とリボーンは答える。静かになった空間に、彼の好きだったメロディーが流れた。 この店には似つかわしくない、明るい曲だ。
この曲は?と尋ねた。
「あいつが好きだった曲だ。 この店には相応しくないか?そうだろう。俺もそう言ったんだが、あいつが俺に押し付けたんだ。…それが最後だった。これは、あいつへの餞別さ」
またこい、と去り際にリボーンは綱吉にいった。

マンションのオートロックを抜け、綱吉は雲雀の家の目の前に立った。緊張する。俺はちゃんと言うことができるのだろうか。
「…君、誰?」
綱吉が口を開くと同時に、雲雀は言った。
「バジルと申します」
綱吉は答えた。雲雀の目には、隈が濃く出ている。彼は、寝ていないのだろうか。 何の用?と雲雀は不機嫌そうな様子で、聞いてくる。どうやって来たとは聞かれなかった。内心ほっとしながら、保険会社のものですと、彼にいった。保険会社がなんの用なの。 実は、綱…、名前を言おうとしたとたん、何かが綱吉の目の前を横切った。
「その名前を言うのやめてくれる?」
「……ですが俺は、綱吉君に頼まれてっ!」
不思議な気分だった。 自分のことなのに他人行儀に言うのだ。雲雀はトンファーをふるう。辛うじてよけた綱吉は泣きたくなった。雲雀さん、俺です。綱吉です。綱吉は叫びたかった。 だけれど、それを言ってしまえばすべては無に還る。消えてしまう。どうすればいいのだろう。彼の心を開くには。綱吉は雲雀の持っていたトンファーで殴られて気を失った。






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