バタンっと屋上の扉が大きな音をたてて開いた。 開けた人物は走ってきたのか、息を整えるようにゆっくりと呼吸をする。 綱吉の姿を探し、見つけた後ろ姿に落胆したように溜息を吐いた。
「君、だったんだね」
ハーモニカに目線をやり、バジルに言う。 あの音は、この男が鳴らしたものだったのだ。一体何者なのか。 ふと、先ほど見たハーモニカが気になってもう一度それに目をやればそれは、雲雀が綱吉にあげてやったハーモニカのようだった。
「なんで持っているの」バジルに問う。
「なんで君がそれを知って、あれを弾いたの」
聞こえてきた曲は「星に願いを」だ。 雲雀と、綱吉の大切な思い出。どうしてこの男が知っているのか。あぁ、あの日記を見たからか。雲雀は喫茶店で会ったことを思い出す。
不思議と目の前の男に怒りは覚えなかった。それでも、どこかおかしいと感じる。どうしてあんなに詳細に話せたのだろう。 日記の存在を雲雀は知らなかった。いつの間に綱吉はあんなものを残したのだろう。保険金のことだっておかしい。 雲雀は疑問に思う。おかしいことは今までにたくさんあった。保険会社の人間だからといって、なぜあんなにも必死になるのか。 雲雀を知っているようだった。綱吉と懇意にしているようだった。それがおかしい。あり得ないのだ。 なぜなら、雲雀は知っていた。綱吉の病室に来る人間のことはすべて覚えていたし、あの喫茶店の店長のことだって知っていた。 あそこで綱吉と出会ったことをいまでもすぐに思い出せる。
綱吉は、誰にでも優しい子だった。 だけど、弱音は吐かない子だった。
綱吉が何か直感したとしたって、誰にでもすべてを話せるような子じゃない。
あの子は一人で何でも背負う子だ。誰かがその荷を軽くしてやらなければあの子はずっと黙ったまま、独りで進むのだ。 その荷を払うのは自分の役割であり、少し腹立たしいことにリボーンの役目だった。それ以外にいなかった。だからこそ。 出会ってすぐの関係で、ここまで話せるのか?答えはノーだ。
雲雀は思いだす。
「…どうして!どうしてわかってくれないんですかっ!」
あの時はよくわからなかった。意味のわからないことを言う彼にひどくムカついた。
「オレはっ、そんなあなたがみたかったんじゃない!あなたは、どうして変わってしまったんですか?!」そう、このセリフだ。
オレと、彼は言った。オレとはどういうことなのか。バジルのことなのか。それとも。
雲雀は、今までの男の言動を思い出す。 雲雀のために、必死の形相をした男。恋い焦がれるような視線がうっとおしかった。綱吉ではなくては嬉しくない。それなのに。
いつの間にか、雲雀は男を綱吉と重ねていた。雲雀は目の前の人間をよく見た。そこに、綱吉がいるようだった。 さっきのハーモニカは「星に願いを」。雲雀が教えた曲。綱吉が教えを請うた曲。あんな綺麗な音色は聞いたことがない。 …上達したんだね。
雲雀は考えをまとめた。もう答えは出ていた。不可思議な現象には気づかないふりをした。
ようやく、会えたのだ。会いたかった。もう一度、あいたかった。
抱きしめたい。触れたい。愛しているのだと囁きたい。
姿形が違っていても、綱吉は綱吉だ。だから雲雀は言う。
「君は。…君は、綱吉なのかい?」




星に願いを