無事に手術が終わった。山本は奇跡的に後遺症もなく、肩の怪我もリハビリ次第で完全に治るという。 それには雲雀の尽力もあったといった。綱吉はほっとした。
もう時間は少ししか残っていない。
それでも綱吉は満足していた。これで、成仏することができる。 ただ、心残りは、彼にハーモニカの音を伝えられないことだった。それでも、幸せなのだ。
彼に会うことができた。彼に伝えることができた。立ち直らせることもできた。嬉しいのだ。 自分に出来ることがあった。恩返しができた。
リボーンのことは悲しかったけれど、それでもリボーンは、オレのことが大切なんだということがわかった。
幸せだ。幸せすぎて、泣きたい。感情を抑えられない。
雲雀にもう一度会うつもりはなかった。あったら、言ってしまう。
最後まで知らせたくはなかった。綱吉は、屋上に上がった。病院の屋上から見た並盛の景色が無性に見たかった。

今まで見たことのなかった世界。見ようとしなかった光景。見れなかった、過去のオレ。
太陽が地平線の向こうに落ちて行く。オレンジ色の空がだんだんと暗い藍色の空へと変わっていく。
もうすぐ時間だ。綱吉は直感した。もうすぐあの闇から迎えがやってくる。青と赤をもつ、あの男が。 あの人は何と言うだろうか。綱吉の姿を見て、どう思うだろう。
あの人はこんなオレに呆れながらも、お疲れさまでしたと、一言言ってくれるような気がする。 何となくそう思う。
これも直感だろうか。
綱吉は直感が鋭いなどと言われてきた。それによって助かったりしたこともある。 本当に大事な時に役立つことはほとんどなかったが。
綱吉はハーモニカが吹きたくなった。あの音を久しく聞いていない。 聞かせたいと思っていたのに綱吉はあまり練習していない。音さえまともに出せるだろうか。
息を吹き込む。音は出た。指は何とか感覚を覚えているようだ。でもへたくそ。
綱吉は拙い演奏を空に贈った。曲名は『星に願いを』だ。 というかそれしか弾けない。とぎれとぎれに何とか演奏が終わった。こんなもんじゃ星には届かない。願いはかなわない。 もう一度だ。
綱吉はハーモニカに息を吹き込んだ。澄んだ音色が鳴る。すべらかに動く指。先ほどとは大違いだ。 魔法にかかったように綱吉の二回目の演奏は素晴らしい出来だった。綱吉はほっと息をついた。
彼に届くといい。
聞こえていたらいい。
こんなにきれいだったのだから。
奇跡でも起きてくれたらいいのに。綱吉は思った。
俺を生き返らせてくれたらいいのに。無理だと承知で綱吉は思う。
ヒバリさんにもう一度会いたい。
綱吉は無意識にそう言っていた。




星に願いを