山本は出血がひどく、頭のうちどころが悪かったのと、雲雀にやられた肩の骨が折れてしまっているらしい。 出血は止まったが、危険な状態だといった。診察の様子からみると、すぐに手術を始めなければならないらしい。 わかりました。と震える声で、答えた。突然の急患に、医者や患者はバタバタと忙しそうであった。 そのなかで、一人だけ壁に背中を預け、目を閉じている人間がいた。それは雲雀だった。 手術中と書かれたところにランプが灯り、あとは結果を待つだけだった。落ち着かない。怖いのだ。 失うのが怖い。雲雀でさえも怖かった。すべてが、何もかもが怖い。
「君は、なんなの」
静かに雲雀が問う。綱吉は答えられない。
「僕を、どうしたいの」
雲雀の言葉はひとりごとのようだった。 問いかけているわけではなく、困惑した様子だった。
「ヒバリさん」
綱吉は雲雀に話しかけた。
「あなたなら、できる筈です」
あなたは、人を救うことができる人間だ。
「嫌だ」
「ヒバリさん、あなたしかいないんです」
雲雀は綱吉を見た。初めて本当に目があったような気がした。
「僕には、もう彼を助ける資格なんかない」
それに、と続けた。
「もう、見たくないんだ。…思い出すから」
死を見たくない、という雲雀は駄々をこねる子供のようだった。意地になっているだけのようにも見えた。
「綱吉君は、今のあなたを見て喜ぶと思いますか」綱吉は怒りにも似た気持ちを抑えながらも、言った。
「あなたのそんな姿を見て、彼が喜ぶとでも思っているんですか」もう一度、強い口調で繰り返した。
「…君に何がわかるんだい」雲雀は嗤う。
「君は、綱吉の気持ちがわかるというのかい?」
「えぇ、わかります」
綱吉は強くうなずいた。
「だったら僕の気持ちも、わかるんじゃないのかい?」
雲雀は言った。
「僕の気持ちがわかるというのなら、わかるだろ?」
「いいえ、あなたの気持なんかわかりません」
わかりたくもない、と綱吉は返した。
「あなたは、綱吉君の死によって手術ができなくなったと言ってるけど、それは違う。 あなたが弱かったせいだ。あなたは、乗り越えなければならなかった。あなたは、強いけどとても脆い。綱吉君はあなたの今の姿を望んでいない!」
過去にとらわれるな。今を生きろ!言いたいことをすべて吐き出して、言いすぎたと思ったけれど気持ちはすっきりしていた。
「綱吉は…本当に、そういうのかな」
雲雀の声は震えていた。泣きだしそうなほどに、悲しみを込めていた。
「綱吉は、忘れてくれというのかな」
一層悲壮にあふれていた。綱吉は答えた。
「あなたが乗り越えられないのなら、忘れてほしいと願うはずです」
「…彼はあなたが大好きだった。あなたの幸せを願っている」
そう、いまでも。こんなままでいてほしくなんかない。 忘れて彼が楽になれるなら。
「僕に綱吉を忘れて幸せになれというのかい?それこそ無理な話だよ。あの子は、僕の唯一だった。それは、変わることのない事実だ」
雲雀は言う。
「なら、あなたは乗り越えられますか」
綱吉がそう聞くと、雲雀は無言で手術室の方に歩いて行った。




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