捏造注意報発令中。ルークにハンディキャップあり。
人よりも劣っていると気づいたのは早かった。伝えたいことがあるのに、どうしても意思の疎通がはかれない。
何度言葉を教えてもらっても、俺の口からは乾いた空気の音しか漏れないのだと。それに気づいたときから、誰も俺を見る人がいなくなった。
俺のことを気味が悪いといった。陰口でもなく、俺の目の前で。それは俺が話せないからだ。
罵倒されているのも分っていた。けれど、俺は何も、何も言えなかった。俺の口からは、湿った空気が漏れただけだった。
初めて外に出て、初めてたどり着いた村。興味心身に周りを見渡していたらここでまっててといわれて俺はこくりと頷いた。
どうして何も話さないのかしら。ぶつぶつと小声で去っていく少女の名も俺は知らない。だって、教えてもらってないから。
ただ言われたとおり、俺は彼女が戻ってくるのを待っていた。
なのに、見慣れない人間が村を歩いているのが可笑しかったのだろう。
なぜか泥棒と間違えられてしまい、まわりよりも少しばかり大きい家に連れてこられた。
目の前で始まる喧騒に縮こまりながらも自分が無実の罪を着せられていることを知る。
「どうしました?」
その一言が周りの視線をその人に集中させた。けれど、その人の目は俺を見て細められている。
きれい。言葉数の少ない俺にはそんな言葉でしか表せないような人。その人の目線から、必然的に俺に周囲の目が集まって、萎縮した。
「……どうしたのですか?」
その声音は温かくはないけれど、冷たいわけでもなく。俺はふるふると首を振って口を開閉する。
『しゃべれないんだ』
そう、口を動かせば、相手は暫し黙り込んでそれから、そうですか、といって周囲に何かを言った。
それが俺を助けるためなのだ、と。そのことに気づいたのは周りの人たちが謝ってきてからだ。俺は感謝をこめて、その人にありがとう、と口でゆっくりと伝えた。
いいえ、と答える相手は愛想笑いで返してくれる。俺の知っている、ある特有の笑顔だったけれど、俺にはその人の笑顔がとてもきれいに見えた。
やさしいひと。こんな俺を助けてくれた。(それがたとえ、ただの興味本位だったとしても俺には神様のような。)
外に連れ出してくれたその人は、ジェイドと名乗り、俺の名前を聞いてきた。
『ルーク。それが俺の名前だよ』
まるで本当に会話しているようだと、高揚する気持ちで俺は彼を見上げた。
『ジェイド、さん、俺……』
俺が何かを言おうとした時、少女の声がそれ遮った。
「ルーク。どこにいってたの?宿に行くわよ」
腕を引っ張られて、俺は彼女にずるずると連れられていく。俺は慌てて後ろを振り向いて、小さく会釈した。
ジェイドさんはくすりと笑って、ではまた後でお会いしましょうと言ってくれた。
また後でって言葉に不思議に思ったけど、俺はまたこの人と会えるんだという思いで嬉しくなった。
今度は、いつ会えるのかなぁ。今日の日記はジェイドさんのことばかりになってしまいそうだと、なんとなく楽しい気分になった。
2008/04/23→2008/05/05 chisa