「ルーク」
誰かの声が、自分の名を呼んだ。うるさいな、まだ寝ていたいんだ、俺は。
「……ルーク」
と自分の名を呼ぶ声が大きくなった気がして、重たい眼を擦りながらゆっくりと起き上がる。
聞いた事のない男の声がルークの名を呼んだのだ。知り合いではないはずのその男の声は、不思議と頭に響くような、それでいて優しい音だった。
……誰もいない。いつもの、幻聴だっだのだ。なんだかくやしい。
ベットが置かれただけの小鳥の檻のような自分の部屋のあたりを見渡して確認する。怪しい奴も、誰も、見当たらない。
頭の中でさっきの声が何度も繰り返されて、そんな自分にイライラした。心のどこかで狂おしいほどに、その声の持ち主を求めている、そんな気がしたのだ。
くそっ、何なんだよ。一人ごちてみるけれど、男の声は消えてはくれない。仕方なくもう一度寝て、忘れようと決定づけた。
―――だけど本当は目を瞑ればまた、あの声が聞けると思ったのだ。
……これは、夢なのか? いつの間にか、部屋の中ではなく外へと出ていたルークは思った。満月がたくさんの白い花を照らしていて、とても綺麗な場所だった。
またあの声で後ろから名を呼ばれて、振り返る。
ルーク、と自分を呼ぶ声は今まで以上に優しい。男の顔はよく見えなかったけれど、緋の目が印象的だった。そしてその目は三日月の形をして幸せそうに笑んでいた。
この男はだれだ? 自分は知らないのに、知っている。久しぶりに聞くあの人の声だ。うれしい、うれしい。また逢えたね、優しい人。
自分の中から溢れる感情に、ルークは戸惑う。それに気づいたのか、男は小さく笑った。
「逢いたかった」
男の言葉が聞こえるたびに、泣きたくなるけれど嬉しくなる。そして少しだけ、悲しくて。何かを言おうとしても、声がでなくて空気が漏れた。
「何も言わなくていい。私は伝えにきただけなんですから」
男はそういってルークの体を抱き締めて、呟いた。あぁ、こんなにあたたかい人がいるのだ。
「迎えに行きます。絶対あなたに会いに行きますからその時は、」
私にあなたを攫わせてくださいね。と囁かれた声に、無意識に頷いていた。だって、知ってしまったのだ。この人の温もりの温かさを。
自然と目と目が合い、顔が近づいてくる。ルークは男の緋の目を見つめて小さく言おうとした。
「…待ってる、からな」
けれどその言葉は、男の唇によって伝えられることはなく掻き消えた。
2008/08/29→2008/11/17 chisa