ルーク・フォン・ファブレ。
その青年は、ジェイドには都合のいい駒としての存在でしかなかった。
青年はよく怒り、よく笑い、よく癇癪をおこす。感情を制御することも出来ない。
それはまるで幼子のようだった。
青年の実態を知ってもそうだった。もとからジェイドにとって青年は煩わしい存在だった。それが視界に入れることすら嫌な存在になった。
ジェイドからすればジェイドのもっとも嫌悪する存在だった。
ジェイドは青年を正面から見ることは一度もなかった。
始めは彼の地位を、そして模造品であることにしか意識は向かなかった。
そしてそれはいいものではなかった。

青年はよく笑う。よく笑う。笑う。困った顔で。泣きそうな顔で。辛そうな顔で。笑うのだ。
青年は変わった。笑うようになった。人を気遣う一面を見た。
それでも、ジェイドは青年が嫌いだった。ジェイドは青年の笑った顔が嫌いだった。
泣けばいいのにと柄にもなく思った。
つらいのなら、言ってしまえばいいのに。
青年は馬鹿だと思った。泣くのを我慢して、どうして笑うのだと思った。
そして、ジェイドは青年に言った。

「どうしてあなたは笑うんですか」

青年はまた笑った。ジェイドの嫌いな笑顔だった。

「ジェイドだって、いつも笑っているだろう?」

笑っている?ああそうだ、私は笑顔を張り付け取り繕っているのだから。
この青年も同じなのだろうか。全てを胸に秘め、何も悟らせず。己にすら気づかせず。

「でも、今は笑ってない」
「そうですね」
「何で?」
「……あなたが笑わないからです」
「俺? 笑っているじゃないか」
「……あなたが泣かないからです」

青年は困った顔をした。笑っていない、心底困ったというような途方にくれた顔。

「……ジェイド?」
「泣きなさい」
「いやだ」
「泣かせますよ」
「……いや、だ」

ジェイドは青年の顔を見た。初めてまともに、正面からみた。

「子供は泣くのが仕事です」
「俺はっ、子供じゃぬぇ…っ!」

青年の震える声に、ジェイドは嫌悪を感じなかった。
何故か、いとしい、と思った。
青年の顔をジェイド自身の胸に押し付けて、ジェイドは思った。
泣く青年のことをかわいらしいと、がらにもなく思った。









MEMOからの再録。大人と子供


(どうか聞いて下さいbyafaik)
2009/3/10→2010/2/16 chisa