太陽の燦々とした砂漠の真ん中で熱い暑いと叫ぶ少女がいる。
「あついー! あつい、あつい、あつい、あついっ!!」
「うるせーよ! アニスっ!! よけーに熱くなるじゃぬぇーか!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」
「「うるさい!!」」
「あなたたちがうるさいわよ!あぁもう、暑苦しいから喋らないで」
「「だって、ガイが…」」
咎められようやく落ち着くと思えば、息ぴったりで話す少年と、少女は言った。
いつの間にガイという青年のせいになったのか。最初は少女が言い出したことではないのか。
「ル、ルークまで…俺が何したって言うんだ……」
少年にまで言われて、青年は肩を落とす。
どんよりと一人沈みだすが、男がそんな事をしかも砂漠のど真ん中でされたって暑苦しいだけだ。
それに、もとより暑さで仲間たちは正常な判断をしかねている。
「ガイ! 暑苦しいですわっ!!! 置いていきますわよ!」
行き先の町はもう見えているのに、こんなところでじっとしてはいられない。
ガイは先を行く彼らを慌てて追いかけた。
その後ろからのんびりと、青い軍服をしっかり着こんでいるというのにまるで熱くないといった様子で、
涼しげに歩く男がにこやかに笑った。
「いやー。若者たちにはついていけませんねぇ」
ケセドニアという目的の町についた途端、仲間たちは宿になだれ込んだ。町の外も暑いのだ。
それに、宿に行けばベッドがある。冷たい水がある。疲れた体をいやすのにはちょうど良い。
足はあったはずなのに、彼等は歩いて砂漠越えをする羽目になってしまったのだ。
それはどっかの誰かのせいであるのだが。ここでの言及は避けよう。
とにかく、彼等は休息を欲していた。やっとたどり着いた宿である。
「あれぇ大佐知らない? ルーク??」
「知らねー……なんで俺に聞くんだよっ!」
宿のベットで大きくのびをしてアニスはきょろきょろと周りを見渡した。
今日は全員一緒の大部屋だ。いつもは別々にしたりするのだが、あいていなかったらしい。
他の仲間はいるというのにあの目立つ青い軍服の、大佐がいない。
目の前のベットに寝ころんでいたルークに尋ねてみれば、上のとおりである。
「え〜? 知らないのぉ……? いっつもルークってば大佐のこと見てるからてっきり」
ルークは飛び起きる。
「ななな、なに言い出すんだよ!! 俺は、そんな、ジェイドのことなんか見てねぇよ!!」
「またまたぁ…ねぇ〜知ってるよね〜ミュウ〜?」
「知ってるですのー! ご主人様はジェ「おい、やめろ!! ミュウっ!!」
慌ててルークはミュウの耳を掴み引っ張って制止する。
「やぁっぱり」
「な、何が」
「なんでもないですよ〜、ね! ティア!」
「(ミュウ…かわいい…)……え? そうね、そう!」
ティアは聞いていなかったようだった。ほっとしてルークも周囲を見渡せば確かにいない、青。
幸いなことにナタリアとガイは先ほど出かけて行ったのでいない。ガイは荷物持ちだろう。
そして話題の張本人のジェイドは宿に入ってから姿を見ていない。
町の仲までは一緒だったのだから、どこかではぐれてしまったのだろうか。
ジェイドのことだから、アニスも心配はしていない。ただルークがからかいたくなっただけなのだ。
「ルーク、心配?」
「べ、べつに! ジェイドのことなんて心配してねぇよ」
……あ。
「ふっふっふっ、聞いちゃいました? ティア?」
「えぇ、聞いてしまったわ、アニス」
頬を染めてティアはルークを見つめる。
ルークがおびえればおびえるほどに笑うアニスと真っ赤になりながらも見つめてくるティア。
怖い。
「俺、出かけてくるっ」
とにかく逃げようと後ろを向けば、かわいい…などという声が聞こえた。
怖い、怖すぎる。つかんでいたミュウをティアの方に放り投げ、足早に逃げ出す。
その背中に向かってアニスは爆笑しながら言った。
「あ、大佐をよろしくね〜!!」
「なんで俺が…」
ぶつぶつと文句を言いながら歩いていれば、ナタリアとガイを見かけた。ガイの手にはたくさんの荷物が……係わらない方がいい。
ルークは無視を決め、視線を前方へと戻した。今日はいつもよりも込んでいる気がする。
暑いというのに、人の熱気でもっと熱くなってどうにかなりそうだ。早くジェイドを見つけなければ。
そうまで考えて、ルークは足を止めた。なんでここまでジェイドを考えなければいけないのだ。
見つからなかったといってルークは怒られるわけではない。アニスには何か言われそうだが。
ジェイドは大人なのだから、どうとでもなるだろう。
ルークは来た道を戻ろうとした。すると混んでるせいか、人とぶつかってしまう。
挨拶もそこそこにルークは足を宿に向けようとした。
すれ違いに綺麗な女性たちが足早に歩いて行く。
「酒場だったわよね?」
「えぇそう言っていたわ。とっても素敵な人だって!!」
酒場。素敵な人。
「それに、マルクト帝国の偉い方なんですって!」
……それって、思い当たるのは…
「ジェイド、……だよな」
行きたくない、けれど。
『とっても素敵…』
さっき言っていた言葉が、気になる。
ジェイドは確かにルークから見てもカッコいいし、大人の魅力というものがあるのだろう。
でも。
(気に入らねぇ……)
どこかにもやもやとしたモノを詰まらせたような、不快な感覚。
「行けば、いいよな」
会って、宿を知らせるだけだ。取り込み中なら、さっさと帰ればいい。
ルークは彼女たちが向かっていった先の酒場に歩きだした。
酒場は混雑していた。これでは目的の人物を見つけるのは大変だ。
それに、ジェイドに先に見つかってしまったら、鼻で笑われてしまうだろう。
「どうしてこんなところにいるんですか?」
お子様が。
そういってジェイドはルークを追い出すだろう。
ルークはこそこそと周囲をうかがいながら、ジェイドを探した。
そしてルークはジェイドは見つからないが、女性の人だかりを発見する。
ちらり、見えた青。
(やっぱり、いた……)
けど、女性と話している。
(楽し、そうだ…)
ジェイドを待つ女性はたくさん控えている。
(どうして、)
―――どうして、苦しくなるのだろう。
ルークは急に自分がとても情けなくなった気がしてジェイドから視線を遠ざける。
ルークの朱金に輝く髪が揺れた。
もう、帰ろう。これ以上は、居ても仕方がない。
アニスに見つからなかったというだけでいいのだ。
「おや、ルーク」
帰ろ、…………?
「ルーク、無視するつもりですか貴方は」
多少笑いを含んだ声音だがどこか冷たい。
「ジェイド……」
ルークはジェイドの方を向いた。女性たちはもうジェイドの周りからは消えている。
(よかった……)
よかった……? 何が。
「どうしてこんなところにいるんです?」
「べ、別にいいだろっ! そんなこと言われる筋合いねぇよ!!」
「お子様が着ていい場所だと思っているんですか? あなたは」
やっぱりだ。子ども扱い。
「どうしたんです、ルーク」
ルークの不自然な様子に気づき、ジェイドは問う。
「……何でもねぇよ」
「そうですか、……なんて言うと思っています?」
ルークの両頬をジェイドは手で挟み、覗き込む。
「うるせぇ……子供扱いすんじゃねぇよ!!」
「……子供、ねぇ」
そんなところが子供なのだ、そう言外に言っているような気がしてルークはそっぽを向こうとする。
「知ってますか? ルーク」
顔を寄せられた状態で、身動きできない。
「ここ2、3日はお祭りなんですって」
「それがどうしたんだよ……」
「夜にしかお祭りはしないんだそうですよ? 花火も見れるそうです」
「へぇ……? 花火って何だ?」
「そこからですか。やれやれ」
ジェイドはルークの頬から手をはなし降参だというポーズをする。
「ジェイド」
ルークはジェイドの様子に腹が立ち、拳をジェイドへと振りかぶる。
ジェイドは予測していたのかそのままルークの腕を引っ張り、今度はルークの腰を片手で無理矢理ジェイドの方へとよせた。
利き手は取られたままである。
「ルーク、行きませんか?」
「どこに……つーか放せっ!」
拘束されて身動きができないし、人がたくさんいる場所なのだ。
ルークは恥ずかしさで、顔は真っ赤になってしまう。
「お話をしてくれた方に聞いたんですよ。この近くに絶好の花火を見るポイントがあるんですって」
その話とは、恋人同士が行くデートスポットの話なのだが。
ジェイドはそれを女性たちに聞きだしていたらしい。
女性は紳士的で優しげなジェイドにそれを教えていたらしいのだ。
女性たちは女性たちの思惑があってのことだったが、ジェイドには知ったこっちゃない。
「へぇそうだったのか…って、だから放せよ!!」
そうだったのかとは、どういうことか。
ジェイドは瞬時にルークの内心に気づく。
「何、ニヤニヤしてんだよ!」
「いーえ、なんでもありません。さぁ行きましょうか?」
可愛い子供に、ジェイドは手を差し出す。
腰は拘束されたままだったが、利き手を解放されて、ルークはジェイドを涙目で睨んだ。
この格好は、恥ずかしすぎるのだ。
「見たくないのですか、花火」
ジェイドはルークをみてにこりと笑う。
これは、行くというしか選択肢はないのだろう。ルークは一つ溜息をついたあと、差し出された手に己の手をのせた。
「……行く」
「そうですか、それはよかった」
「その前に、宿……」
「そうですねぇ、皆さんに言ってこなければ」
もうすでにルークはジェイドの術中に嵌っているのだ。抜け出せるはずがない。
その日、夜空に咲いた花の下で一組のカップルが生まれた。
花火の下で恋に落ちた者同士は、ずっと結ばれる、そんな言い伝えが昔からあるらしい。
後日。
「どうして俺こんな奴と……」
「私のこと嫌いですかルーク」
「き、嫌いじゃねぇよ!」
「じゃあ好きってことですよね」
「またやってるわ、あの二人……」
「ほっときましょ」
砂漠の町での無意識の嫉妬と、恋心。
ケセドニアにて、女に囲まれる大佐とルーク。あんまり甘くない。
でした。久々すぎて文章の雰囲気が、がらりと変わってしまった気がします。
(どうか聞いて下さいbyafaik)
2008/11/3→2009/02/22 chisa