綱吉の願いがかなったのか、わからない。まだ、意識は保っていた。時間が残り少ないことにはかわりはない。 知られてしまったと言うのに、すぐに消える気配はなかった。だけど、終わりは近づく。雲雀にはたくさん言いたいことがあった。 知られてしまったのだから、すべて伝えてしまいたかった。だけどそんな時間は、ない。
「…そうです、ヒバリさん」
「どうして、どうして言わなかったの」
雲雀は切ない顔をする。 そんなの当たり前だ。最後に雲雀を見たかった。たくさんの雲雀を、記憶を詰め込みたかった。 雲雀と過ごしたかったからだ。
「あなたに会えてよかった」
綱吉は雲雀の質問には答えなかった。
「大好きです、ヒバリさん」
綱吉は精一杯笑った。雲雀が動く。綱吉に近づく。 だんだんと足早になって、ぶつかるように、雲雀は長い腕で綱吉の体を包み込んだ。
「綱吉。…綱吉、あいたかった。今までごめん。気付かなくてごめんね」
雲雀は綱吉を強く抱きしめ、謝る。今までの時間を埋めるように、強くきつく。
「ヒバリ、さん…」
「もうどこにも行かないよね?ずっと僕と居るんだよね」
存在を確かめるように、雲雀は綱吉を抱きなおして、綱吉の下がった顔を上げさせた。
ぼろぼろとこぼす涙。綱吉じゃない男の顔。だけど中身は綱吉で。雲雀はそっと口付けた。濡れていた唇は少ししょっぱい。雲雀は嬉しくなった。 綱吉が戻ってきたのだ。雲雀のために、帰って来てくれたのだ。綱吉は雲雀をまっすぐに見つめ、ゆっくりと首を横に振った。
「つな、よし…?」
「ごめんなさい、ヒバリさん。それは無理なんです」
綱吉は辛そうに顔をゆがめた。
「本当は、もう、会わないつもりでした」
会いたくなかったと、嘘をつく。
「どうしてだい?綱吉、僕と一緒にいてくれるんだろう?僕に会いに来てくれたんだろう?…僕を、生かしたいんだろう?」
綱吉の嘘に雲雀は騙されてはくれない。雲雀は一層綱吉を強くだきしめて言った。
「もう放してなんかやらないよ」
君がいないと生きていけない。君がいないと僕は駄目になる。
「だけど、無理なんです」
もとから期限があった。 ここに雲雀にばれてからも在ることができるのは奇跡なのだ。
「嫌だ」
放すまいとする雲雀に綱吉は胸が締め付けられるようだった。
「あなたに会えば、こうなることがなんとなく分かっていました。……けど、会えて嬉しかった。 オレは、あなたに言いたいことがたくさんあって、あなたにしてあげたいこともたくさんあって、まだまだ未練は沢山あります」
「だったら、だったらここにいなよ。僕のそばにずっといなよ!」
雲雀は綱吉の言葉を遮る。雲雀だって分かっているのだ。 綱吉の温もりが少しずつ無くなってきているのだから。
「ヒバリ、さん…ごめんなさい」
綱吉は雲雀からすぅっと離れた。 綱吉の体は透けていたのだ。もう、雲雀には触れることができない。
「大好きです、本当に大好きです」
離れたくない、消えたくない、雲雀のそばにいたい、死にたくなんてなかった、もっともっと雲雀といたかった。
時間が、ない。
「だまりなよ、」
「すき…っん、す、…きで」
雲雀の顔が綱吉の顔に近づいて、触れるかのようにみえた。 実際には触れていない。だけど、綱吉と雲雀には精神的に触れているように感じた。
キスを、している。 味のない、キスをしている。 あたたかさも感じない。でも、激しくて、どこか熱く感じる、キス。
「綱吉…」
雲雀ははぁ、と熱い息を吐く。
「僕も、好きだ」
「!」
「好きだよ、綱吉。 …いや、好きなんてものじゃ足りないな…、ねぇ、一度しか言わないよ。覚えておくんだよ、次に会った時言ってやらない。次は君から言わせてやる。…愛してるよ、綱吉」
雲雀は約束をした。綱吉を放す覚悟を決めた。綱吉を放したくないという思いが、綱吉をここに留めていたのだ。
「ヒバリさ…!」
綱吉はゆっくりと消えていく。
「…また、会えるんでしょ?」
雲雀はムッとしたようにいった。 何時もの雲雀。最後まで、綱吉のために、綱吉に悲しい顔をさせないように。
「は、はい…!約束します!だから、だから、ヒバリさんも約束してください…!次は、次はもっと早く、見つけてくださいね!オレ、待ってますから…!」
綱吉は必死にそう言って、笑った。雲雀に見せる顔は、最後は笑顔でありたかった。
「うん、わかった。覚悟してな、綱吉」 雲雀が、笑った。にやりと不敵に。それは、綱吉を安心させるものだった。
「はい……っ!」
そして、消える。 霧がはれるように、消えた。残ったのは雲雀と、そして、ハーモニカ。
先ほどまで、雲雀達がいた場所は、屋上のようで屋上ではなかった。何処か不思議な空間。正確には幻覚というのだが、雲雀も、綱吉も知りはしないだろう。 そして、気づくこともない。気付かせることもない。それは、あの男の力。
「僕は、君を見つけるよ」
(最初に出会った時のように)
(綱吉は、気づいていなかった。君を見つけたのは、僕が先だ)




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