Buona notte(おやすみ)



 ―――つなよし、とその人が俺を呼ぶ。
 大切に、大切に、慈しむように。
 その声がとても優しくて、ふわりと自然に綱吉に笑みが浮かんだ。

 薄らと目を開けて、外がまだ暗いことを確認する。いつの間にか一緒に綱吉の布団の中にいる雲雀の体温を感じて、あれ、と不思議に思う。眠るときはいなかったのに。
「……なん、ですか、雲雀さん?」
「ずいぶんと、体もなまってきたからね、君と手合わせ願えないかと思ってね」
「……あんた、そのために俺の布団にもぐってきたの」
 雲雀が綱吉を抱き締めて。綱吉も雲雀を抱き締め返して。ぎゅーっと抱きあって、温もりを確かめて。触れあう温度が気持ちよくて、うとうと、また眠気が綱吉を誘う。
「……だって、君、寝てただろう。僕が何やっても起きないじゃない」
「んーたぶん、あなたに抱き締められると、温かくって安心しちゃうんですよ」
「……この間キスしても君、起きなかったけど」
 抱きついてもだめ、キスしてもだめ。それならなにをしたらいいのと雲雀は首をかしげるけれどそんなの綱吉にだって分からない。雲雀の側というのは綱吉が安心できる場所なのだ。
 綱吉を咬み殺すことは考えもしない雲雀のことを優しくなったよなぁ、と思うだけ。
「そう……ですね、名前、呼んでください」
 少しだけ考えて、綱吉は微笑んだ。ふわふわ、心地よい気分だ。
「名前ずっと呼んでくれたら、俺、起きれますよ? たぶん」
 さっきあなたの声で呼ばれて起きるの、とても嬉しかったの。
 そう言うと、雲雀は綱吉の肩に顔を寄せた。
 暗闇で雲雀さんの顔、元から見えないのに。何となくこの人今、照れてる気がする。
「……やだよ、そんな面倒臭い」
「えぇ? ……ダメですか?」
「だって、いつだって僕は、君のこと呼んでるでしょう?」
 そのくらい君の超直感で察しなさいとぎゅーっとされる。ぬくい。
「……ひばり、さん」
「なに?」
「もうちょっと、寝てもいいですか?」
「もうちょっとだけ、ね」
 僕も眠くなってきた。このまま寝ていいかい? 
 苦しいから嫌だ? 僕も、やだよ。
 先に起きた方が相手を起こすんだからね。君が先だったらちゃんと名前を呼んで。いいかい、綱吉。
 雲雀さんの声って子守歌のようだ、と綱吉は思う。雲雀さんの優しい声は、とても心地がよくて、眠くなる。
 もう、だめだ。声を上げるのも億劫で、綱吉の近くにあった雲雀の唇を自分の唇で塞いで、うん、わかったからとおやすみのキスをする。
 おやすみなさい、雲雀さん。
「……うん、おやすみ」


 ―――さて、どちらが先に起きるのだろうか。







2013/02/04 chisa(TwitLongerでUPしていたものをすこし改稿してこちらにUP)//2013/3/5加筆
Buona notte(伊:おやすみなさい)ぴゅあぴゅあぷらとにっくひばつなもすきなんです。








Buon giorno(おはよう)




「―――朝、か」
 ヒバードの声がどこからか聞こえてきた。何所か外れた並中校歌を歌っている。何度も教えているのにな。
 一度それで覚えてしまったからなのか、それともそれが気に入っているからなのか、あの子はなかなか直してくれない。
「起きな、綱吉」
 ゆさゆさと体を揺すっても、声をかけても、綱吉からは小さな寝息だけが聞こえてくる。
 外は明るい。今日も一日が始まったというのに、小動物はまだまだ起きる気配なし。
 雲雀は一旦綱吉を起こすのを諦めて布団をまくり体を起こす。うん、今日は少し寒いかもしれない。
「ヒバリ、アサ、アサ! オハヨウ!」
「うん、おはよう」
 すい、と雲雀の肩に飛んできたヒバードと朝のご挨拶。
「ツナ、マダ、ネテル? オネボウサン!」
「そうだね、お寝坊さんだ」
 ちょいちょいとヒバードに指で触れるとヒバードがもっと撫でてと言わんばかりに自分の体を雲雀に押し付けてくる。
「君はもう朝ごはん食べたかい?」
 草壁が用意してくれるだろうから、お腹がすいているなら先にいきな。
 腹をすかせていたのだろう、その言葉にきらりと目を輝かせると雲雀に興味が失せたとばかりにヒバードは去っていく。現金な子だ。
 ―――それにしてもまだこの子は起きないのか。
 雲雀が起きて布団が少し乱れたために寒かったのか、綱吉は小さい体をさらに小さく丸めてすやすやと穏やかに眠っている。
「ほんと、寝汚い」
「……うぅん」
 綱吉の小さな鼻をぺちゃりと指でつぶす。この子、何所も彼処もふにふにしすぎているんだよ。
 少し苦しそうな顔をしてきたので指を放してやる。雲雀は仕方がないなぁとゆっくりと布団の中に逆戻り。それからもぞもぞと布団の中で近づいて綱吉を抱きしめる。
 温かい。子ども体温だ。心地よくて僕もまた眠くなってしまいそうになるのだからいけない。
(つなよし、つなよし、起きな)
 腕の中にしまいこんだ綱吉の鼻をかぷりと食べるけれど、これくらいじゃ小動物は起きてはくれない。
 本当に鈍い子だ。もうちょっと強く咬んでみようかな。
 がじがじと頬を咬んでみたけれど綱吉は小さい唇が静かに寝息を立てて、起きる気配がまったくない。
 ならば、次が最後の手段だ。これでも起きなかったら、久々に咬み殺してあげよう。
 雲雀はその唇にそっと近づいて、啄むように何度も顔中にキスをする。
(起きて、起きなよ)
 綱吉のまぶたがぴくり、動いた。
 花咲くように、ゆるゆるひらくまぶたから、きらきらした琥珀色がゆっくりと現れる。
 さぁ、早く僕を映して。そしたら君のこと、ちゃんと呼んであげるから。
「おはよう、綱吉」
 そう言ってちゅうと優しいおはようのキスをすると、君が嬉しそうにふにゃりと笑う。僕もなんだか嬉しくなって笑ってしまった。


 ―――君が望むのなら、いいよ。僕はその願いを叶えてあげる。
(名前を呼んで。ずっと呼んでいて。そうしたら俺、きっと起きるから)





2013/02/22 chisa(2013/3/5 加筆修正済)
Buon giorno(伊:おはよう)//ツイッター診断の結果、ぴゅあヒバツナの第二弾を書いちゃいました(*´∀`*)