雲雀恭弥という1人の人間の世界は、本来異なるものであった。
所詮は異物。この世界にとって、異物にすぎない未来の知識のあるこの意識。
ある筈のものがなかったり、なかったはずのものがある、この平行世界で。
雲雀恭弥という人間は、ようやく一人の少年を見つけた。
それは、愛しい人の面影をもつ、まだ幼い小動物。
その子どもは力も、心も、まだまだ弱く、未発達。
――――それでも、雲雀恭弥は構わなかったのだ。
(彼にもう一度会うことができたのだから)


ヒバリさん、苦しい。と小動物が腕の中で鳴く。
はなしてはなして、そんなにつよく抱きしめないで。
時々不安定になるヒバリさん。
そんなときはオレを抱きよせるのはヒバリさんの癖なのだ。
「どうしました?」
何かありましたか? ほとんど彼のみに使う丁寧語。くいくいとシャツをひっぱってヒバリさんを見上げる。
「もう少しだけ、我慢して」
ぎゅうう、少しだけ力がさっきよりも強くなって呼吸が苦しいので、もぞもぞと楽に呼吸ができる位置を腕の中で探して。
(ヒバリさん今日はどうしたんだろう)
彼は出会ったときから、達観した目をしていた。なにかの感情を押さえこんだ、への字の口元が、オレを見た途端ゆっくりと開いたのだ。


出会いは応接室。ヒバリさんの城とも言えるその場所に山本や獄寺くんと足を踏み込んでしまったときのことだった。ヒバリさんは一発目にオレを咬み殺し、次に山本たちを咬み殺してから、まだ意識のあるオレを見た。
どこか苦しそうな顔。ヒバリさんは声に出さずに、会いたかったといった。口元がそう言っていた。オレにそんな特技があるはずないのに、彼の感情はなぜか簡単に伝わってきた。
「ゆっくりしていきなよ。救急車は呼んであげるから」
それでも、めちゃくちゃピンチなのにはかわりはない。リボーンが死ぬ気弾を撃つとオレはヒバリさんにむかってトイレのスリッパに成りかわったレオンで頭をひっぱたいた。
とたん、不機嫌になるその人。オレの意識は死ぬ気になっているはずなのに、その表情を見てパタリと止まる。
今回も、また。口がそう動いて。
「おひらきだぞ」
リボーンのその言葉で我に返ったオレは、なんとかリボーンの起こす爆発を逃れた。
逃げる間際、彼の見せた表情が、忘れられなかった。

「1年A組の沢田綱吉、今から1分以内に応接室に来ないと咬み殺す」
突然の放送。聞こえる声は、本人の声で。ざわついた教室の中、先生にはやくいきなさいと言われてオレはがむしゃらに走った。
何度も廊下や階段でこけそうになりながらも、ようやくたどり着いた応接室。
我ながら良く迷わずにこれたと思う。けれど一分は絶対に過ぎてしまった。
オレ、咬み殺されちゃうのかな。
ノックしようとすれば気配を察してか、あいてるよとヒバリさんの声。
「よく来たね」
来ないかもと思っていたよ、とヒバリさんは言う。
「か、咬み殺さないんですか……?」
遅れちゃったのに、と言えばヒバリさんは咬み殺してほしいのと首をかしげた。
「咬み殺すために君を呼んだわけじゃないからね」
だったら、何がしたいんだ。なんて直接ヒバリさんに言えない。けれど顔には表れていたようで。
「情けない顔」
小動物みたいだ、とヒバリさんは何故かご機嫌。
「オレになにか用事でもあったんでしょうか……?」
オレはぼそぼそ、自然と小声になる。
「うん、そう」
君に、やってもらいたいことがあるんだ。
そういっておいでとヒバリさんの座っているソファに招かれて、ここに座ってとヒバリさんは膝をぽんと叩く。
「え、でも、いや……そこは」
「なに、嫌なの?」
断ればトンファーが出てきそうな気がする。
(こ、断れるわけがねぇーーーっ)
「いえっそそそ、そんなことないです」
「うん、じゃあおいで」
ヒバリさんが腕を広げてオレをもう一度呼んだ。
「し、失礼しまーす」
ヒバリさんの太腿は筋肉質で、座り心地としてはまあまあ。けれど居心地は最悪だ。
そんなオレをよそにヒバリさんはオレを何故か抱き締める。
「うん、ちょうどいいね」
……何が。何のこと?
「君、いいね」
一人で何かに納得して、うんうんと頷いて。
「あの……ヒバリさん?」
「なに?」
「何がいいんですか?」
「……抱き心地、かな」
首をかしげて考え込んで、出た言葉はそれ。
(こ、この人、何も考えちゃなかった!?)
「……これ、食べる?」
差し出された菓子は美味しそうな洋菓子だ。とても美味しそうでごくりと喉がなれば、ヒバリさんの手がオレの口元にくる。
「口あけて」
あーんと、食ベさせられ、もぐもぐと噛んで飲み込めば、よくできましたと頭をなでられる。まるで、子どもが嫌いなものを食べたときの親みたいだ。
「おいしかった、です」
「よかった」
ヒバリさんはそれから何度もオレの口に菓子をやって。
オレが頬張って食べれば、口元を緩めて穏やかにくすりと笑う。
最初はむず痒かったそれが何度か繰り返すうちに、居心地も良くなってきて。
ヒバリさんって、なんだか変わってるなぁと振り返って顔を見やれば、何もっと?という。
首を振ってもういいです、といえば遠慮しなくてもいいのにと残念そう。
だけど、オレのお腹はいっぱいだ。
「ヒバリさんって、変わってますよね」
「そうかな、君の方が変だと思うけど」
なんだかヒバリさんの腕の中は温かくてほっとする。
「小動物、」
君がいるとね、何故か落ち着くんだ―――――。
そう、耳元で囁かれて。
「また呼んだら、もちろん来てくれるよね」
強制するようにいうヒバリさんのその声音は、なぜか切願しているように聴こえた。



それからというものの、オレはヒバリさんに呼ばれれば、彼のそばに近づく。
こっちにおいでといわれれば、抱き締められて、抱きしめ返すようになった。
そこに、恋愛感情はないとは言いきれないかもしれない。でも今はまだ、知らないふりをする。
「小動物、こっちにおいで」
ヒバリさんがオレを呼ぶときはヒバリさん自身が不安定なときが多い。
ヒバリさんはいつでもオレを、オレたちを助けてくれる。
―――まるで、未来がわかっているように。
だから、オレは。そんなヒバリさんを支えてあげたいと、思ったのだ。














浮かれてるのは…うん、認める
(けどね。僕はただ君がいてくれる、それだけでいいんだ)


『雲雀さんが逆行しているため、精神は大人な雲雀さんと綱吉。でもどこか子供な部分が残っていて。綱吉のほうが、雲雀さんのことを雲雀さん自身よりもわかっているんです。そんなヒバツナください。』というツイッタ―でのつぶやきから生まれたお話です。 読みたかったのにね、書いてしまったのは言いだしっぺの原則です。はい。逆行ネタ書きたいなとメモで言ったその日に書いてしまいました^^
うーん、ヒバリさん視点も書いた方がいいですか……?←
2012/04/06(04/05にpixivにてUP) chisa