一緒に下校する帰り道、初めて触れたその大きな手はとてもあたたくて。オレよりも熱いほどで。
「……やめて、」
耳を赤くした彼は振り払わなかったけれど、それはオレにとって何よりの拒絶だったのです。


――――神様はずるい。
きっとヒバリさんの神様はヒバリさんの事をすべてわかって、触れることさえできるのだ。
「なにそれ?」
「いないんですか? ヒバリさんの神様……」
「僕の神様?そんなもの、いるはずないじゃない」
いるとしても、神様は知らないよ。手を届かせることが難しい人だからね。
ヒバリさんはふ、と笑った。けれど、いくら優しくされたとしても、ヒバリさんは決して触れてきてはくれないのである。

ヒバリさんに、ふれたいのに。嫌なことはしたくないから。
(もし、また拒絶されてしまったらどうしよう。でも、ふれたい。)
いつも不安で。緊張してしまって、俺は彼に触れることができない。
彼は黒の黒衣をまとった、俺にとってはシスターのような存在である。
優しくて、強いヒバリさん。
側にいることを許してくれても、彼はけして俺に無防備なところを見せないのだ。


今日は大掃除だ。普段はしない窓ふきやワックスがけを行う大掃除。綱吉は裏庭の落葉の掃除である。
もうほとんど木々に残る葉はなく、枯れ葉の絨毯が広がっていた。
「多いなぁ」
愚痴を吐かなければやってられない。
すべて一人でやるわけではないにしろ、裏庭を担当する人数はそんなに多くないため、一人ひとりが掃く面積が広い。
獄寺くんや山本、炎真は違う場所の掃除になってしまったので綱吉は一人だ。
「…ヒバリさんに会いたい」
ザッザッと早く終わらせようと箒を動かす。
寂しい。ひとりは嫌いだ。大好きな雲雀さんに会いたい。触れなくてもいい。一目見るだけで、幸せになれるから。
「……寒っ」
冷たい風にぶるりと震える綱吉の耳に、ぴいぃと鳥の声が聞こえて頭上を見上げた。
それは、ヒバードだった。窓を一生懸命拭いている人の姿も見える。
何もこんな日に大掃除なんてと思う。今日の気温は最高気温で10℃以下。
朝は霜が降り、雪はまだ降っていないものの、一段と寒くて布団から出れず、今日もまた遅刻してしまったのだ。
冬は水道水がとても冷たい。手が悴んで麻痺して、逆に温かく感じるほどに。 
だから拭き掃除なんかよりも掃き掃除の方が数倍ましだと外掃除を希望したのであるが、綱吉は失敗したなと思った。
校舎内の掃除にすればよかった。そうしたらこんなに寒い思いしなくてよかっかもしれないのに。

肌を刺すような冷たい風が吹いて、綱吉は箒を動かす手を止めた。悴んだ指先に息を吹きかける。
白い息が指にかかる、その瞬間上から悲鳴が聞こえた。
「……綱吉っ!」
声とともに体に衝撃が走った。何か温かいものに包まれて、綱吉は背中から地面に倒れこむ。
目を瞑って耐えていた綱吉がそっと目をあけるとぽたりぽたり黒い髪から雫が零れた。
バケツが落ちてしまったのだ。窓を拭いていたところのバケツが強風によって落ちてしまったのだろう。綱吉はそう思った。その証拠に、バケツが遠いところに原形をとどめずに落ちている。
―――ヒバリさんがオレのこと助けてくれたんだ。
直前、聞こえた声は彼のものだったのだ。
「……無事?」
直接バケツにぶつかることはなかったし、雲雀さんが庇ってくれたから飛沫にあった程度だ。泥で制服は汚れてしまっているかもしれないけれどそれくらい。
それよりも雲雀さんだ。バケツの水をもろに被ってしまったのだろう。覆いかぶさって庇ってくれたヒバリさんの髪はびしょ濡れ。
学ランだって濡れてしまっているだろう。
「すすすすみませ…っ」
「君のせいじゃない」
それよりも君は濡れてない?と聞かれる声に頷くとヒバリさんはそう、と返事をしながらも綱吉の全身を確認する。
何やら校舎内が騒がしかった。バケツをヒバリさんに落してしまったクラスや見ていた生徒が慌てているのだろう。
綱吉がキョロキョロと視線をさまよわせていると、ぐいと腕を掴んで立たせ、その手をすぐに放す。
その手が掴んだのは制服ごしで、彼のぬくもりを感じることはない。
綱吉はそれを悲しく思い、眉根を下げた。
「行くよ」
「え、ま、まってくだ…」
「ずっとそのままの恰好でいるつもり? いいからきなよ」
その声音は優しい。背中を向けたヒバリさんはスタスタと歩きだし、綱吉はその背を追った。


応接室の中はとても暖かかった。暖房を入れているのだろう。
ごそごそと何かを探しているヒバリさんに声をかければ、ぽいと投げられた替えの学生服。
「これに着替えな」
いそいそと着替えている綱吉を見届けると、ヒバリさんは学ランを脱ぎ、ワイシャツまでも濡れてしまっていたのかその場で脱ぎ出す。
ヒバリさんの背中は無駄な筋肉が一切ない。着やせするタイプらしく、脱いだ体は綱吉の柔な身体と違って男らしい。
手を洗ってくると言ってその場を少し離れたヒバリさんはすぐに戻ってきて新品のようなカッチリと糊の付いたようなワイシャツを着る。
「どこも怪我してない?」
こくりと頷いた綱吉は座ってなと言われて近くのソファに座る。
ヒバリさんはまだ濡れている髪をタオルで軽くふき、綱吉に何か飲むかと聞いた。
「……あの、ヒバリさん、オレのこと拘束してください」
唐突に言ったオレの言葉に彼はピタリと一瞬、動きが止まる。
「……何言ってんの君」
雲雀さんの体がオレを惑わす。ちゃんと触れたことは恋人になってからも一度もなかった。
だから、こんなに近くに無防備な姿でいるヒバリさんをみていると触ってしまいそうなのだ。
「オレ、ヒバリさんのことが大好きだから何するか分かんないんです」
そういうと、ヒバリさんの顔がぼっと真っ赤に染まった。しばらく何かを考えていたヒバリさんは一瞬のうちに手錠をだして手首にはめる。
「……これでいいのかい」
こくりと返事を返せば、ヒバリさんはココアでも作ってくるから待っていろという。
「ヒバリさん」
去っていくその背中に向かって呟く。
「あなたが好きだ」
どうしたのと振り向くヒバリさんに向かってオレは言った。
「うん」
そんな事とっくに知っている。ヒバリさんは優しい目をして続きを促した。
「本当はあなたにさわりたい、ずっとくっついていたい」
こんな風に考えるオレのこと嫌いにならにでほしい。
雲雀さんが嫌なことをオレはしたくないのだから。
でも、でも。言葉だけじゃ伝えきれないのだ。

「……嫌なわけじゃないんだ」
僕だって触れたいんだよ。雲雀は綱吉の手の拘束を解く。
―――どうして僕だけのものにならないんだろう。僕は全部あげれるのに、と何度考えただろう。
「だけど今は、」
ダメとなんか言えそうになかった。潤んだ瞳が僕に訴えてくるのだ。

ーーーねぇ、ヒバリさん。ふれたいの。あなたと熱をわけあいたい。

彼を目の前にすれば、僕の体中が熱くなる。だからいつも触れることができなかった。
どんなときだってなんだって関係なかった。さっき彼を助けたときに急激に上がった僕の熱。その手で彼に触れることは戸惑われて。
……だけど僕の手は今冷たい。汚れていた熱をもった手を、水道水で洗ったせいだ。

「ヒバリさん、……ふれてもいいですか?」
寒いでしょう? 風邪ひいちゃいます。俺の方が絶対あたたかいですと、彼に近づく。
「……つなよし」
ぽつりと、オレを呼ぶヒバリさんの声。ヒバリさんがオレにその手を差し出す。オレはその手をそっと握った。
「うん、君の方があたたかいね」
やわらかい声が綱吉の耳をくすぐる。
握り返してくれたヒバリさんはもう片方のオレの頭の後ろにやって、俺をそばへと近づけさせる。
触れた手は冷たかった。彼は全身で寒いと訴えていた。ふれてみなければわからなかったことだ。
「ヒバリさん、つめたい」
大丈夫ですか、といえばヒバリさんは更にオレを抱きよせた。
「君に触れていれば寒くない、むしろ熱いくらいだ」
プライドの高い、彼が言う。綱吉はだんだんと温かくなっていく体に擦り寄った。
「あったかい、ですね」
「……うん」
優しい、綱吉だけの黒衣のシスターの熱は、綱吉だけが知っているのだ。















火は焼き尽くすだけじゃなくてあたたかいから
(ヒバリさん?)(あつい……)(大変っ、熱が出てるのかもしれません!)(違うよ、君にふれているからだ。でもはなさないでね、僕も君にずっとふれたかったんだ)


なんといったらよいかどうか……!始めにこま太さんごめんなさいい!シスター雲雀がシスター雲雀にならなかった!
ご期待に、それてしまい申し訳なく……><
あ!このお話は、ある少女漫画のぱろになりますー!設定と雰囲気をその少女マンガのように近づけるよう頑張りました!
知っている方がいらっしゃれば嬉しいな!もう、タイトルに一目ぼれして買ってしまった本なのでした////
こんなお話になってしまいましたが、ここまで読んでくださった方のみこのお話はフリーです><
私の名前さえ入っていれば後は焼くなり煮るなり(??)ご自由にどうぞーっ!!
こっそりお持ち帰りもOKですが、一言くださいますと飛び跳ねて喜びます!!
2011/12/24 chisa