※描写はあまりないですが、百合ヒバツナ(幼女)です。





―――星の輝く美しい夜でした。王子さまとお姫さまはその輝く星たちの下で二人きり、彼らの空の上からは流れ星が落ちました。1つ、キラリと落ちたとき、お姫さまはまるで魔法ねと笑いました。
お姫さまは子供ができたのと言いました。王子さまはとても喜びプロポーズをしようとしましたが、その王子さまは大事な大事なプロポーズのときに婚約指輪を忘れてしまったことに気づいたのです。王子様は偶然持っていた赤いリボンをお姫さまの左手薬指に巻きつけます。君が僕のものであることの証だよ、と優しくお姫さまにキスをしました。そうして、二人はいつまでも幸せにくらしました。

なに、この本。子どものじょうそうきょういくってやつに悪いんじゃないの。と本を読んで聞かせてやっていた少女は思いました。
お誕生日会の準備ができるまで一緒に遊んでてねと可愛いかわいい妹のような存在の子であるツナの母親の奈々に言われ、何をしたいといったところ、かわいいかわいいツナに読んでとせがまれて読んであげた絵本です。漢字はすべてひらがなをふってありましたが、それでも子供が読むような話でありません。かわいいかわいいツナにどうやってお姫さまに子供ができたのと聞かれたらどうすればいいのでしょう。こんなの子供に向けた絵本ではないじゃない、それに、と少女は眉をきゅっと上げます。
「いいお話だったねぇ、恭ちゃん」
読んでくれてありがとう!とキラキラした目で喜びを表すツナに、恭ちゃんと呼ばれた少女は、うーん、と首を捻ります。
「そうかな。王子さまってこんなに情けなくていいのかな」
「なさけない?」
こてり、とツナは首を曲げて、なあにそれと興味津々です。恭ちゃんの話す言葉は難しいことが多く、だけどその都度わからないと聞くと丁寧にわかりやすく教えてくれるのです。恭ちゃんはツナのお姉ちゃんのような人。大好きで大好きで仕方がない恭ちゃん。本当の名前は雲雀恭弥というのですが、今よりももっと幼い頃、恭ちゃんと言えるようになってから、ずっとそのままです。
「まぁ……ダメダメってことかな」
「ダメ…? でも、しあわせになりましたっていってるよ?」
「そうだけどね、でも僕はお姫さまがこんな男と一緒になるなんて可哀想だと思うよ。だって、ぼくはこんなことにはぜったいならないよ」
「恭ちゃんカッコイイねぇ……!!」
ツナは恭ちゃんが言った言葉の大半を理解できていませんでしたが、最後にきっぱりといった恭ちゃんがとっても格好良かったため、恭ちゃんスゴイ! かっこいい!と褒めまくります。
「あたりまえ、僕はツナにはじなんてかかせないんだから」
えへんと胸を張り、恭ちゃんは自分よりも小さいツナの頭を撫でます。
「僕がツナをずーっと守るんだからね。だから、ずっと側にいるんだよ。約束なんだから」
「うん!約束するっ!」
恭ちゃんとツナは指きりをして、にっこりと笑います。
「来年も、再来年も、その先もずーっと一緒だよ、ツナ。君は僕のものなんだからね」
「恭ちゃんだってツナのものだよ〜!」
にこにこにこにことツナは嬉しそうに笑いました。約束をしたことがそれほど嬉しかったのでしょう。
恭ちゃんとした約束の意味も、正確に把握はできていません。
「そうだ。あのね、僕プレゼント持って来たんだよ」
「??プレゼント?」
「そう、だって今日はツナの誕生日でしょう? それで僕は君のお誕生日会にきてねって奈々に招待されたんだよ」
「そうなの!ツナのお誕生日!一緒にケーキ食べようね」
「うん、もう少ししたら奈々に呼ばれるからね。ツナ、左手出してくれる?」
「こう?」
手を差し出したツナに、ツナ、これ僕の気持ちだよ、受け取ってね。とゆっくりと左手の薬指にはめていきます。
指にキラキラと輝く宝石に、ツナは目を輝かせました。
「ふわああ、綺麗だねぇ!!」
「……君に似合うと思ったんだ。失くさないようにチェーンも買ったよ」
これでずっと身につけていられるよね?と、可愛らしいラッピングの袋をツナに渡しました。
「うん!……あ、あのね、ツナも恭ちゃんにゆびわ、あげる!!」
ちょっと待ってね、とツナのお気に入りの玩具が入っている箱をガサガサと漁り出します。
「……あった! あったよ恭ちゃん! これ、ツナの一番お気に入りなの!」
ワクワクと興奮したように、ツナは、恭ちゃんに両手を差し出します。その手の上には小さな指輪が。
玩具のような、大きくて綺麗な琥珀色の石が輝いています。
「……いいの? それ、ツナがとっても気にいっていたものじゃない」
「ツナは恭ちゃんに貰ったものがあるからいいの! 手を出してっ」
恭ちゃんの手を引っ張り、指にはめようとしますが、その指輪は小さくて恭ちゃんの指には入りません。恭ちゃんの指が大きいのではなく、指輪が小さかったのです。ツナがあげた指輪はスーパーのお菓子売り場で売っている、小さな女の子向けのアクセサリーですから、それは仕方のないことなのです。
「……ご、ごめんね恭ちゃん、違うのあげるからっ!」
だから嫌いにならないでと目に涙を溜め、ツナは再び玩具箱の中を探し出そうとします。そんなツナを慌てたように恭ちゃんが止めました。そして今にも泣きだしそうに口をゆがめるツナをぎゅうと抱き締めます。
「いいんだよ、ツナ。君が一番大切にしているものをもらえてすごく、嬉しい。今日は、君の誕生日なんだからさ、泣かないで」
僕は絶対ツナのこと嫌いになんてならないから、と小さな体をさらに強く抱きしめます。
「くるしいよ、恭ちゃん」
「……ツナ。その、お願いがあるんだけど、さっきあげた袋の中身、かしてくれないかな?」
恭ちゃんは抱きしめる力を少しだけ緩くして、片手でツナの目尻にたまった滴を拭ってあげました。
「……? うん、いいよ?」
そう言ったツナは、恭ちゃんにちょっと離してと腕から抜け出しました。
「はい!」
「ありがとう」
可愛らしいラッピングされた袋を受け取った恭ちゃんは丁寧に袋を開け、包装をはがしていきます。
そしてチェーンを取り出すと、それにツナからもらった指輪を通し、首にぶら下げます。
「……これでどう?」
そっとツナの様子を窺うと、ツナの瞳は先ほどの悲しそうなものとは打って変ってキラキラと宝石のように煌いて、似合う似合うと嬉しそうに何度も頷きました。

「二人ともー、準備ができたわよ〜! 降りてらっしゃい」
奈々の声が聞こえてきます。ツナと恭ちゃんは、互いに顔を見合せ笑いあって、手をつなぎました。
ツナの左手には恭ちゃんのあげた指輪が、恭ちゃんの首にはチェーンとツナがあげた指輪が、キラキラと輝いていました。










素直に言うとすると臭い台詞になっちゃうし
(今は言わない、いつか君に言うんだ。「愛してるよ」って)

二人とも女の子にした意味がはたしてあったのでしょうか。でも、書けて大満足です。指輪のシーンが前から書きたかったんです^^ 恭ちゃんもツナもとっても可愛いふあふあでひらひらのお洋服という脳内妄想がされておりますが、文章中には全く出てきておりません。←
2011/10/14 chisa