こんな関係にまでなってしまったのは、多分、成り行き。
最初は敵同士だったのにどこでおかしくなったのかいつの間にかこいつは俺に懐いていた。
例えるならば刺々しかった筈の野良猫がいつの間にか懐いてたと言ってもいい。
…猫?
違う、そんな可愛げのあるもんじゃない。
こいつはパイナップル。というか髪が長い、長すぎる。何で切んないのかなぁ。

いつもいきなり執務室に突然現れては綱吉君、綱吉君とうるさい。でも、他人がいるとその態度は急に冷たくなる。その時の態度は敵だった時と変わらない。俺を標的です。なんて言う。俺を呼ぶセリフも、綱吉君じゃなくて、沢田綱吉に変化する。不思議だ。パイナポーの謎。俺の中の七不思議の一つ。

そんな骸は、俺の仕事は知ったこっちゃないと(あぁまたリボーンに怒られる)かまってかまってとオーラが出ている。何でこんな奴なんかに慕う部下がいるんだろう。クロームとか、犬と千種(名前を呼ぶ許可をもらった!)とか、かわいそうだ。こんなに残念なやつなのに。
はぁ、と小さく溜息を吐いて、仕方がないと彼を手招く。嬉しそうに寄ってくる彼。シャツの上にネクタイというわけのわからない格好で、いや似合ってはいるんだけれども。……顔だけは綺麗なのだ。見惚れることもしばしば。今は慣れたけど。だってこの顔が情けないほど崩れて笑うし泣くし照れるし、怒りもするし。見慣れていればそのうち慣れる。そのくらい頻繁に来ているのだから。

ぶらぶらとゆれるネクタイを引っ張る。骸がバランスを崩しそうになる。その隙をねらって、頬にキス。俺は彼をいじめるのが楽しいのだ。彼のいろんな顔を見るのが好きなのだ。
ほら今も、顔を真っ赤にして、照れて、だけどどこかムッとしたような拗ねた表情を見せる。本当は、唇にしてほしかったんだろう。だったら自分からすればいいのに。

「少し待ってて。もう一段落したらかまってあげるから」
「……嫌です」
「骸」
「しかたがありませんねぇ、…あと5分です」
「はいはい」

約束ですよ、と彼は向いのソファに座る。じいとこちらを見てくる視線が痛いけれどそれには慣れた。せっせと書類を減らしていく。約束の5分はすぐに来てしまうのだ。まったく彼は俺に死ねといっているんだろうか。(書類は溜まっていく一方だし、何よりリボーンが怖い)
そして5分、約束の時間。骸が俺に時間ですよと声をかける。わかってるって。俺は机の引き出しから箱を取り出した。

「これやるよ」
「なん、ですか?」

ぽいとそれを投げてやれば、簡単にキャッチしながら驚いたと言わんばかりに目を丸くする。

「あぁ中身? 首輪」
「……はぁ?」

困惑した様子の骸に俺は笑う。俺はソファに座る、骸の隣に腰をかけた。彼はそれに拒絶しなかった。

「なんですかそれは、僕は犬とか猫ですか」
「なんかそれっぽいじゃん。あぁでもお前はパイナポーだよな、ごめん」
「僕のことを何だと思ってるんですか。といいますかパイナポーはやめろといつも言っているでしょう」
「お前パイナポーじゃなかったらなんだって言うんだ。って、違う違う。そんなこといいたいんじゃなかった。その中身は首輪じゃないよ、見ればわかる」

俺は開けるように促した。その中から出てきたのは、無数の紙の束。ちゃんと切り取り式になっている。俺の手作りものだ。

「膝枕券…ですか」
「そう、他にもいろいろあるよ」
「なぜ、こんなもの…?」
「あぁ、ケーキとかがよかった? それもあるよ。あとで一緒に食べよう。チョコも沢山お前のために用意したんだからな」
「だから何故と聞いているでしょう!」
「お前…忘れてるの? 数日前誕生日だっただろ?もう過ぎちゃったけど。お前を待ってたんだからな」
「誕生日、ですか。そんなこともありましたね」

そういえば数日前クロームたちに祝われていたのを忘れていた。
あのとき、綱吉はいなかったのだ。だから、嬉しい、とは思ったけれど、そこまで記憶に残るようなものでもなかった。

骸の中心は、今、綱吉なのだ。

「俺んとこ来なかったし、クロームたちに散々祝ってもらなんだからいいかなぁーって思ってたんだけどさ。俺もお前のこと祝いたくなったんだよ」
「…そう、ですか」
「改めて、骸、お誕生日おめでとう」
「綱吉君に直接そう言われるのはなんだか変な気分ですね」
「そりゃね、だけど嬉しいんだろ?」
「えぇ、ありがとうございます」

照れた顔が、ふにゃりと歪んで綺麗な笑みをつくる。そんな骸に悪戯心で言った。

「……そうそう、キス券も作ったから」
「それがないとしては駄目なんですか…」
「違う違う、俺からするとき専用の券」
「……それは僕に自分から来いって言っているんですか?」
「うん、あたりまえじゃんか」

大真面目に返せば大きなため息を吐かれる。

「なんだよ、嫌なの?」
「そうは言ってませんよ」
「嘘だよ」
「……はぁ、あなたと話すのは疲れますね」

パラパラと俺のあげたプレゼント券をめくって骸は言った。
手が止まったと思ったら、紙を折りだして、手でびりびりと切り出す。だけどとても丁寧だ。うらやましい。
そして俺の手に切ったばかりのそれをぽとりと落とす。

「じゃあ、今はこれをお願いしますね」
「膝枕券? そんなのでいいの?」
「他はサービスでお願いします」
「なんだそれ」

ポス、と頭を膝に預けてきた骸の額を軽く叩く。
してほしいことが他にある?と聞けば、今はこれだけでいいです。と骸は言った。

「しょうがないなぁ、好きなだけしてやるからさ、…後で手伝えよ」

山積みになった書類を指して骸に言った。

「はいはい、わかりました。今は僕の膝枕ですよ」

甘えてくる骸にキスをしてやる。体勢が辛いので一瞬だ。だけど満足したらしい。
嬉しそうに笑うと、次は髪を撫でてと言わんばかりにじいと見つめてくる。
しかたないなぁ。とその長い髪に触れてやる。

甘やかしてやりたい。
愛してやりたい。
幸せにしてやりたい。

―――こんなことをこんな自分より大きな大人(でも子供だ)に考えるようになるなんて。
リボーンにこんな様子を見られたらやっぱり俺はダメツナだなぁ言われる気がする。いや絶対そうに決まってる。と、膝の上に頭を乗せる骸の長い髪を撫でながら俺は思った。










変わったところ、変わってないところ
(いつまでも、変わらないでいたい。ずっと、ずっと。)
2010/06/13 chisa
骸ツナ前提の精神ツナ骸です。十年後くらいです。遅くなったけれど骸誕ものになります。ハっピーバースデー!生まれてきてくれてありがとうを心から。 ムクツナは初なのにこんな文章になってしまった。また雰囲気変わったなぁ。ころころ変わりすぎです。 あんまり甘くないし。ツナ君大人だし、骸は甘えただし。でもこんな関係の二人も好きです。 むしろこうあって欲しい思います。うん、精神的に大人なツナ君っていいよね。