つまらないなぁ。聞いていても全く分からないし頭にも入ってこない授業は暇なだけだ、と綱吉は思う。
 リボーン大先生や獄寺くんのお陰でテストは何とか赤点は免れているけれど、追い詰められないと頑張れないタイプ。数学や英語の授業は黒板に先生が暗号を描いているようにしか見えないし、自他共に認めるダメツナだし。
 まぁいっかって黒板から目をそらして、窓の外、雲ひとつない澄んだ青空を現実逃避するために眺める。
 今日はいい天気だなぁ、なんてのん気に考えていた。

 ふと、視界に過る黒い、何か。
 え、と小さく声に出てしまった動揺にきょろきょろ周りを見渡すけれど誰も気づいていないみたい。
 よかったぁ、と心の中で呟いた。運よく先生は黒板の方を向いているし、山本は疲れて寝てるし、獄寺くんは難解なG文字?で何かを書いているみたい。よかった、と繰り返して綱吉はもう一度窓の外を見る。視線の先は、綱吉が今いる校舎の反対側の屋上だ。
 ―――いた、見間違いなんかじゃなかった!
 ちょいちょい。おいでよと手を差し伸べ、屋上の柵に腰かけて微笑する、プラチナブロンドの色を持つ人。
 びっくりしてオレ!?と自分の指で自身を指せばうんと頷いて笑みが深くなる。綺麗なひと。かっこいいひと。
 時折強い風が吹くのだろう、綱吉の視界を染めた黒いコートがはためいていた。

 キーンコンカーンコーンと、タイミングよく授業の終わりを告げる音が響く。
 終わりだという先生の声と同時に教室を飛び出して、後ろから聞こえる綱吉を呼ぶ声も聞こえないふり。
 心の中でごめんねって謝って、でも屋上へと急ぐ足は止まらない。だってしかたないじゃんか。

 大好きな人が俺を呼んでいるんだもの!

「アラ、ウディさん!」

 息も絶え絶えに屋上の扉を開けて、第一声は彼を呼ぶ、掠れた声だった。
 ぜーはーと呼吸をなんとか整えようと必死になりながらも、くすくすと笑う声に頭を上げる。

「ここまで走ってきたの?」
「あ…ったりまえ、です……っ!」
「やっぱり、馬鹿な子だね」

 君ならいくらでも待つのにと、柔く微笑みアラウディは綱吉に手を伸ばした。

「ふぇ……!?」
「ちょっとね、君が足りなかったんだよ」

 足りない分は補充しないとねって、なでなでと綱吉の爆発している頭に触れて、相変わらずの触り心地だね。気持ちいいね、と間近に聞こえる声にどきどきばくばく、心臓が震える。同時にあれ?ってちょっと違和感。

「アラウディさん……?」

 もしかして眠たいんですか? と見上げて顔を見れば「うん、そうかも」となんだかアラウディらしからぬ素直な返事が返ってきた。

「君が、温かいから」

 抱き枕にして、いいよね? なんてそんな台詞が甘えた子供のように聴こえてしまって。
 綱吉は、真っ赤になってこくりと頷くことしかできなかったのだった。



  ―――――そして二人は夢の中。









迷い子はさ迷う。



ついったーでリクエストしてもらったほのぼのアラツナにちょっとだけ加筆しました。
タイトルの由来は夢の中をさ迷っているツナのことでも、アラさまに翻弄されるツナのことでもどちらにでも当てはまるように。
2012/11/15(11/09にpixivにてUP) chisa