私はあなただけを見つめる



昼時の応接室。昼を告げるチャイムまではまだ少しだけ時間がある。夏の終わり、秋の始まりであるまだ暑くまぶしい日差しの外界の世界とは異なり、クーラーのきいた快適な応接室で雲雀はいつものように書類をさばいていた。
ヒバリ、ヒバリとヒバードが何かを咥えて飛んでくる。
応接室を汚すようなものはダメだと口酸っぱく教えている雲雀なので、ヒバードが持ってきたものが虫類ものではないということはわかっているが、それでもあの子はときどき突拍子もないことを起こすのだ。
この間は蝉の抜け殻を持ってきたっけ?
そろそろ昼だからあの子がやってくる時間だと時計を見上げて時間を確認し、雲雀は降りてきたヒバードのスペースを、机の上をさっと片付けて用意する。
「ヒーバリィ、オミヤゲ!」
口ばしに咥えていた何かをぽとりと落としたヒバードは雲雀に向かってきらきらして目でえらいでしょう? ご褒美ちょうだいと言わんばかりだ。
「何持ってきたの」
変なものを持ってきたのなら叱らなくてはと思いながら雲雀がヒバードが落としたものを見れば何かの種。雫を歪にしたような形をしていて、幾つもの黒の縦じま模様が雲雀にこれがなんであるかを教えてくれる。
「ひまわりの種?」
「ピィッ!」
あたりと言わんばかりに返事をしたヒバードは、何かを期待した目で雲雀を見上げた。
「……どうしろというの」
いったいこんなものどこからとってきたのさ。何がしたいのかさっぱりだ、と雲雀はわけがわからないと困惑した。
「ツナヨシ、ツナヨシ」
「綱吉がなに?」
「ピィーッ!」
ひまわりのことだよ、と言わんばかりにツンツンとヒバードは種をつつく。
「これが、綱吉だって?」
なんとなくヒバードの言いたいことがわかってしまったような気がする雲雀はうんうんと頷いたヒバードをみて深―い溜息をついた。
ヒバードにあきれたのではない。自分自身にあきれたのだ。
(ひまわりが咲いたところを想像して。どこかあの子に似ているかも、なんて。)
ひまわりはあの子の小動物にも姿かたちが似ているなと雲雀は思う。だからきっと、あの子にも似合うはず、なんて。
バカみたいだなんて思うけれどなかなかそんな思考が捨てられない。
この小さな種が芽をだして、成長すると大輪の花を咲かせるのだ。どこから来た種かなんてヒバードに聞いてもわかるはずないけれど、きっと大きく茎を伸ばして、太陽の光をたくさん浴びて育つのだろう。
「……うん、そうだね」
……あの子に育ててもらおうかな。
あの子のことだから僕が言えば一生懸命になって、きれいな花を咲かせてくれるのだろう。
今年のひまわりの時期は終わってしまった。今からでは間に合わないだろうから、この種が芽を出し、花を咲かせるのは来年になるだろうか。
満開に咲いたひまわりといっしょに見る満開の笑顔。かわいいだろうな、なんて想像して微笑む。
「うん、いいな」
お利口さんに待機しているヒバードをよくやったねと撫でてやれば嬉しそうにすり寄ってくる。
「あの子がきたら、伝えないとね」
ヒバードに駄賃だよと用意しておいたデザートをすこし分けてやればもっともっとよこせといわんばかりにピヨピヨと鳴くと、タイミング良く昼を告げるチャイムが鳴った。
あぁもう少しであの子が来るかな。
抗議するヒバードにだめといっても綱吉が来ればあの子にねだるだろうし、結局のところ僕のデザートはまるまるヒバードの腹に入ってしまうだろう。
(君がひまわりのようだと思ったなんて話をしたらどんな顔をするだろうか。)
ヒバードのくすぐったいつつきにそんなものは効かないよと雲雀は小さく笑って、綱吉が早足で応接室にかけてくる音に、耳を傾けるのだった。





私はあなただけを見つめる



2013/12/01 ちさ
凛さんの誕生日に何がいいですかー?と聞いたときにリクエストをしていただきまして、以前にぷらいべった―さんの方に載せていたヒバツナです。
【私はあなただけを見つめる】はひまわりの花言葉です。季節外れの話ですが、今後私生活の方でさらに忙しくなってまいりますので、今のうちにと。