「骸、これやるよ」
 頬を染め、可憐な声で話す少年の声は骸の幻術か。否、これは現実。骸たちのアジトが、少年のいる所だけ光り輝いたようにみえるのは幻術かもしれないけれど。
 目の前に立つ少年が包装された包を骸に押し付け、なんか恥ずかしいんだけどと照れた顔でくしゃりと笑う。中身はチョコだ。手作りの。そう、綱吉君が作った手作りチョコ。
「ぼ、僕にですか……?!」
「言っただろ? クローム達のついでだから。……でもまぁ、うん。なんだかんだ、お前に世話になってるし」
 綱吉君のツンデレいただきました! ムスッとした顔の綱吉君もおいしいじゃないですか!
 骸の頭の中はフィーバー状態だ。これって、これってやっぱり僕が好きってことになりますよね!
「頑張って作ったんだから、文句言わずに食べてよっ!」
 口早に言って走り去ってしまった綱吉を骸は追いかけない。綱吉が照れ臭くて逃げてしまったのはわかっている。だって骸も照れていた。そして混乱していた。好きな子から、チョコを貰えたのだから。
「……えぇ、もちろんですよ」
 骸はその背に向かってそっと呟く。ありがとう、綱吉君。
 ――――Ti amo.
 すでに光の中へと消えてしまった君に、僕の想いが君に届けと願ってやまない。








*おまけ。(むしろ本編)

 バレンタインデーまであと一週間、本日は2月7日。現在の居住地は日本、並盛町沢田家前。
 六道骸という人間はイタリア人ではあるが、郷に入っては郷に従え、つまりは日本の土地に入ったんだから日本の文化に従うべき、という精神に則って骸はバレンタインデーという日を日本の文化に従うことを決めていた。

 ―――それは、バレンタインデーは好きな人にチョコレートをもらえる日なのだと、どこからか犬たちが情報を仕入れてきたことから始まった。
 チョコレートが食べたいからとか欲しいからとかではない……が、綱吉君からチョコレートは貰えるだろうか。
 骸は犬たちから得た情報を吟味し、そんなことを考えていた。
 彼には嫌われてはいないだろうが、好かれている、とは考え難い。骸の悩みはそこにある。
 日本は好きな人にチョコを贈るという文化があるのだし、綱吉君だってその文化にもちろん従うのだろう。それだったら綱吉君の好きな人もこの機会にわかるはずなのだ。もしいないのなら骸のことをアピールするチャンスにだってなるだろう。僕が綱吉君にチョコをあげれば彼は己の持つ超直感で僕の気持ちをわかってくれるだろうし。
 常日頃の骸の行動は綱吉の行動を観察し、後をつけ、綱吉に襲い来る危険から避けること。彼に気づかれないようにと細心の注意を払っていつも警戒を怠らないようにしている。聞こえはいいが、ただのストーカーであった。
(あぁ、どうすれば、どうすれば綱吉君からチョコを貰えることができる?)
 骸様、あのね、好きな人からチョコもらえるって言っても、一応、女の子が贈る日なんだよ……?
 クロームの声は、骸に届かない。
(……そうだ、沢田家に手作りチョコキットでも贈ってしまえばいい)
 それなら僕が綱吉君にチョコレートあげたことに、なりますよね?
 綱吉君に気持ちが伝わるわけだし、それで綱吉君が僕に手作りチョコをくれたら一石二鳥だ。そうだ、作らざるおえない状況に持ち込めばいい。そして、僕に渡すように仕向ければ……クフフ。
(どうせなら僕好みのチョコを作ってもらいたいですしね)
 そんなこんなで手作りチョコキットを買うために骸はクロームの体でバレンタインデー特集とやらをやっている店へと奔走し、同い年くらいの少女達にもみくちゃにされながらも目的のものを手に入れ、沢田家へと赴いたのだった。

 骸が綱吉の警護をしていない間の綱吉の周辺の警護や調査は犬や千種に任せてある。犬や千種の調査ではすでに学校から家に帰ってきているということだった。今日は寄り道せずに帰ったらしい。
 ピンポーンと玄関のチャイムを押して、応答を待つ。無駄にラッピングの施されたチョコキットを持つ少女。その姿はさぞ店の他の客にはおかしく見えただろう。どうしてチョコキットにラッピングをするのだ、と。クロームが恥ずかしがるような、咎めるような声が聞こえてきたような気がしたけれどそれは骸の気のせいだろう。
「はーい」
 ぱたぱたとこちらに向かってかけてくる音。この声の主はそう、綱吉君だ。
「どちらさま……ってむ、骸!?」
「こ、こんにちは、綱吉君」
 骸が沢田家に来るのが珍しいからだろう。動揺してあたふたする綱吉君がなんだか可愛い。
「え、なんで家に!? ……もしかして、クロームに何かあったの?!」
 眉根を寄せて心配そうに骸を見上げた綱吉を骸はきりっとした顔で見返した。
「違います。……あなたに渡すものがありましてね」
 取り出したのは、きれいにラッピングされた箱。色は橙。綱吉君の色だ。
「え、えぇっ!? これを俺に?」
「開けてみてください、危険なものではないですから」
 なんでもない日に、骸は何を持ってきたというのだろう。綱吉は首をかしげながら外のラッピングをほどいていく。出てきたものは……手作りチョコキット。意味がわからない。
「……骸。なに? これ」
「見ての通りです」
「……はぁっ?」
 見ての通りって言われたって綱吉は困る。骸はなにがしたいんだ?
「チョコですよ?」
「チョコっていってもさ……。 ちゃんと俺にわかるように説明してよ」
「ですから、綱吉君に作ってもらいたいと思いましてね」
「なんで俺が」
「一週間後はバレンタインデーでしょう? だからです」
 日本ではバレンタインデーはチョコを作ってあげる日なのでしょう? 材料を君のために買ってきてあげたんですから、感謝しなさい。さらりと言う骸に綱吉は沈黙した。
「……骸、お前バレンタインデーの意味ちゃんと理解してる?」
「えぇもちろん」
はぁ、と深いため息を吐く綱吉に、今度は骸のほうが首をかしげる。
「普通は女の子が友達とか好きな人にチョコを贈る日なんだよ?」
 ほら、本命チョコとか友チョコとかって言うじゃん。今じゃ逆もあると言えばあるらしいけど。これ買う時、女の子ばっかだっただろ?
「……はい?」
「……え? 知らなかった……?」
 女子が、好きな人に贈る日? じゃあ男はどうするのだ。僕は、何かとんでもない勘違いをしてしまっていたのか?
「日本では好きな人が好きな人にチョコレートをあげる日なんですよね?」
「うーん、間違ってはいないけど……あーもう、いいよ。作るよ」
 確認するように言う骸に綱吉は、どうせこれを買いに行くときにクロームたちに散々迷惑かけたんでしょ?と降参するように苦笑する。ずぅんと沈みそうな骸だったがその救いの声にピクリと反応した。
「クローム達に渡しに行くって言っといてよ」
 よしよしと子どもを慰めるような声音で綱吉が言う。そんな綱吉に骸は期待の眼差しを向けた。
「綱吉君……っ! それじゃあ……!」

「……あ、先に言っとくけど、骸のはついでだからね!」  






ちょこっとラブ


友人のひとみさん誕生日にみぁーのさんとの合同本にして捧げたムクツナでした。 お話の中身はムクツナというよりムク→ツナなバレンタイン。
ふだん書かないCPだったので四苦八苦しながら頑張ってみたらこんなお話になってしまったのでした。
こんな扱いでごめんね、骸。君のことは忘れない。
2013/02/15(2/12にpixivにてUP) chisa