「君が、新しい僕の主人かい?」
黒曜石のような瞳を持った、黒い服を身にまとった美しい少年は、目の前にいる琥珀色の瞳を持つ少年へと問いかけた。
「ええ、そうです。おはようございます、ヒバリさん」

―――あなたが起きてくれるのを、ずっと、待っていたんです。


先祖代々と続いている“ボンゴレ”の稼業は万屋であり、主に人助けをしていたが、依頼内容によっては人を殺すことさえも厭わない社会だった。その影には何代目からか黒く美しい日本人形のような青年姿があったといわれている。それは初代側近であったある男とその姿は色以外酷似しているらしく、その男がモデルになったとは言われているが、それは真実どうであるかはわからない。
ある時からボンゴレの当主となった者の横には常に人形がいたために、いつの間にかボンゴレは人形師(パペッター)として名が知られるようになり、代々、人形師としての能力を強く受け継いだものが当主になれる決まりであった。
しかし、当主が扱う人形は黒く美しい人形と決まっており、当主を選ぶのは実質人形であるために代々の当主は仮初の主人であることが少なくはなかった。

人形と主人の間には誓約が存在する。
そしてそれは仮初の主人であっても人形との誓約は成立し、一度起こした人形は、当主が亡くなるときにやっと眠ることができる。そして、次の主人が現れるまで人形は眠ったままになるのだ。しかしその慣習は、代がかわる毎に人形は自身の力を増しつづけ、当主すらも抑えきれないくらいに凶暴性を増したため、数代前から人形を目覚めさせることすらしていなかった。


眠っている間に人形は長い夢を見ていた。
誰もが忌避する存在となった人形は、今ではボンゴレの奥深く、ほとんどのものがその存在すら気付かない暗く狭い場所で深い眠りにつき、次に起こしてくれる人間(しゅじん)を待っている。

人形は待っているのだ。たったひとりの人間のためにずっと待っている。人形の心を満たすことができる、人間を。人形の生を終わらせてくれる主人(もの)を。
―――人形が見た夢は、最初に人形として彼を創った人間であり、彼が待つ唯一の人間の夢であった。

人形には意志があり、人形には心がある。人形にはどうしてか血も人間のように流れており、記憶だってできる。それこそ人の何倍も世界で呼吸をしてきた人形の体は、生きている人間のようなあたたかささえもっていた。人形、ヒバリの脳内に焼き付けた過去の記憶は、鮮明で、美しい色をしている。それは、太陽のように眩い世界だった。

ヒバリは新たな主人の声を待つ。どの位眠っていたかはわからない。この穏やかな世界でずっと眠っていたいけれど、早く目覚めたい。君がいる世界は、もうどこにも存在しないから。だったら、現実世界で待つべきなのだ。彼が約束したから。ヒバリを縛り付けたのは、彼のせいではないが彼だ。彼のためにずっとずっとここで待ってやったのだ。次に起きたときには、僕から迎えに行ってやろうじゃないか。もう待てない。ヒバリは縛り付けられるなんて本当は大嫌いなのだから。


『ヒバリさん、』

―――どこか懐かしい声が、ヒバリを呼んだ。

『起きて』
『あなたを迎えに来ましたよ』

―――僕を起こすのは、誰だい?



そして、現在。
「ふうん。そう…まあ、よろしく頼むよ」
それは、新たな主人が人形の主人として認められた瞬間であった。
ほっとした様子で嬉しそうに笑う姿はどうしてか見覚えがある。人形が人形である前の記憶を思い出させる。
「どう、しました?」
パチリ、と瞬きをしてまじまじと目の前の少年を見つめる。
目の前にいる者は。―――あぁ、君なのか。
己は今、人形なのにどうしてか胸が軋むのだ。零れおちてきそうなものを塞き止める。


「…もうあなたはボンゴレから解放されました。これで自由ですよ、ヒバリさん」
あなたは“ヒバリ”さんです。もう、人形ではありません。
ずっとあなたを自由にしたくて。そのために、俺は。
「それは君を犠牲にしないといけないものかい。これからは君が人形になるとでもいうの」
そんなこと許さない。

「……僕はこれから君のために、生きるよ」
君をずっと待ってた。だから命令してよ、マスター。
「じゃあ…壊しましょうか、すべて。……あなたが過ごしやすい世界を作るために」
「―――いや、君と僕のために、だよ」



今度こそ一緒に生きよう。今度こそ、君と同じ時を歩んでいこう。
いつか消えてなくなるときだって、君と一緒だよ。
忘れないで、僕は―――――――







まちがっているのはわたしでありあなたでありせかいですけれども
(愛してる。だから壊そう、全ての柵を)
2011/08/08 chisa
文字数1827で頑張った雰囲気小説……設定だけが凝っているのに、全然活かされていない上に、何が何だかわからなくてごめんなさい。とりあえずこんな設定なので、ボンゴレの初代はジョットではなく“ツナ”です。ジョットは実質2代目だったり(笑)冒頭と最後に出てきた綱吉はツナの生まれ変わりですね。 解説として人形師は人形を自在に操ることができます。しかしその人形というのは元人間なのです。意志をなくした人間を操る。ネクロマンサーとはちょっと違うのですが、幻術の一種ですね。(…黒幕が誰か決まったような)罪深いボンゴレの業。最初ボンゴレはそんなことしていませんでした。ヒバリさんが人形になってしまったのはとある抗争の最中の出来事でした。ツナを守った際に刺されたものは毒でした。しかしその毒はその時には何もなかったのです。しかし、年月がたつごとにその毒の効果を知りました。不老になってしまった自身に気づいたのです。彼は、ツナが死ぬときに一緒に死のうとしましたが、それをツナが止めたのです。あなたを解放するのは俺でありたい。絶対もう一度会えるから、死なないでほしい。それまでどうか待っていてください。と。そして、ジョットに託したのです。ヒバリをどうか、よろしくと。ヒバリが困らないように、彼に様々な誓約をつけて。そして、ヒバリさんは今まで人形として生きてきたのでした。ヒバリさんを呪縛から解放してハッピーエンドではなく、ボンゴレを解体してハッピーエンドになります。 解説が小説の約3分の1あるってどういうこと…。