ずるい、と思う。
羨ましい、と思う。
彼のそばに無条件でいられる、あの小さな小鳥を、俺はうらやましいと、思う。
―――つまらない、嫉妬だ。

あの人は、小さくて可愛いものに目がない。小動物には猫かわいがりする。彼の目がその子たちに触れるときは、デレデレしているように、俺は見えるのだ。嬉しそうに、傷をつけないように、美しい指でふれる。ちょんちょん、さわさわ、あの人に触ってもらえて嬉しそうな子たち。何だか毛並みまで艶やかになったように見えて。俺の相棒もいつの間にか彼のとりこ。俺の次にあの人が好きなのらしい。俺がかまってあげられないと、決まってあの人に可愛がってもらっている。
…ずるいと思う。
―――けど、俺はそんなこといえない。動物に負けてるなんて、言えないじゃないか。嫉妬しているなんて、誰が言えるだろう。

彼とは長い付き合いだ。かれこれ十年になる。
近づいたり、遠ざかったり。はじめはそんな存在で、彼の方から来ることはなく、こちらからの都合に彼を付き合わせていたのに。
いつの間にか近くにいることが当たり前になり、いつの間にかお付き合いをすることになって、時間が経ってから、彼を愛しているのだ、と自覚した。
好きという感情があるのは分っていて、体の関係まであって、それでも俺は鈍くて自分のことなのに気付けなかった。気付けなかった自分が情けない。その時間に戻って俺を叱咤したい。幸せだとは思えずにびくびくと彼に接していた自分を消したいくらいだ。
けれど、彼はそんな事お見通しで。
お付き合いをしていて、彼はとても優しくて、普段に見せる凶暴的な性格はほとんど見せず、穏やかで、俺の気持ちが彼に追い付くまで彼は文句も言わず、接してくれていた。
だから今度は俺の番。そう、わかっているはずなのに。

かわいいものをかわいがるのはわかる。俺だってかわいいものは好きだ。可愛くて小さいものは守りたくなる。相棒だって、俺のかわいい子だ。
だけど、彼のかわいがり方は異常なほど。
俺のそばで、決まって俺が仕事をしている時にやってきては小動物と戯れる。
あなた、群れるの嫌いですよね? なんて言いたくもなるもんだ。言ったことはないけど。
さびしい。俺もかまってほしい。でも終わらない、目の前の山積みにされた紙の束。
―――ずるい、ずるい、ずるい。俺もかまって!
そう羨ましげに彼を見れば綱吉、終わったの? もういいの? 早く終わらせなよと、冷たい。そして彼はまた、かわいい子たちと戯れるのだ。
夜遅くになって、漸くひと段落ついて、彼の方を見やれば、彼の膝で俺の相棒ナッツは眠っている。気持ち良さそうにくうくうと寝息をたてたナッツの腹の上にはヒバード。笑ってしまいそうなくらいな穏やかな時間。
彼は、俺の方を見てもう終わった?と目で聞いてくる。こくりと頷けば彼はナッツ達を膝の上から寝床にそっとおろした。

「寂しかったの?」

俺が彼に抱きついて彼の胸に顔をすりつければ、彼はそう言って俺の頭をなでる。

「そんなこと、ないです」

彼の手は小動物に触れるときのように優しい。

「素直じゃないね、そんなところも可愛いけど」

くいと顔を掴まれて瞳をのぞかれる。いやだ、彼の顔は見たくない。だってあの子たちのときと同じ顔で見ていると思うのだ。せいぜい俺はあの子たちと一緒。お気に入りの小動物の一匹に違いない。

「綱吉、僕の顔をみな」
「や、」
「だめ、ちゃんと見るんだよ」

甘やかな声が俺の耳を刺激する。とろりと溶けてしまいそうだ。

「かわいい、かわいい僕の綱吉」

僕の一番大切で愛しい小動物。触れる、触れる、そっと触れる。たくさん触れられて、優しい掌に包まれて、俺はぼうっと彼の瞳を見てしまった。見えたのは、激しい感情。愛しているといわんばかりの、欲情さえ灯った熱い、熱い瞳の色。

「ねぇ、綱吉。嫉妬した? 寂しかった? かまってほしかった?」

魅入った俺は素直に頷く。彼がこの色を灯すのは俺の前だけだ。

「…嫉妬、しました。ナッツ達がヒバリさんに触れられているのを見るのが嫌で。俺、寂しくなって、すっごく、かまってもらいたくて」
「そう、嬉しいな」

本当にかわいいと、俺を撫でる。

「かわいくなんか、ないですよ。俺なんか」

頬をプクリとふくらませば、彼は困ったように笑った。

「そこがまたかわいいんだ、綱吉は。まぁ僕は君の全部がかわいいと思っているけどね」
「…そんなこと」
「僕が小動物にかまう理由はわかる?」

彼の両腕は俺の腰にまわされて、逃げられない。

「いえ、」
「君に似ているからだよ。君に似て、とても素直で、純粋で、可愛らしい」

ニッコリと効果音がつくくらい、彼は柔らかく笑った。

「……っ!」

彼に真正面から言われて逃げようとしたが、まわされている腕を見てあきらめた。だけど恥ずかしくなって顔を彼の胸に隠す。

「ふふ、いい子だ」

僕から逃げなかったね、いい子いい子。そう、嬉しそうに笑う。

「僕だって君をかまえないのは寂しいよ。いつだって君に触れたいと思ってる。ねぇ、綱吉は、どうなの?」

俺の気持ちなんか知っているくせに、と言えば、君の口から聞きたいんだと彼は言う。

「…俺、俺もかまってほしい、ヒバリさんに、ずっと、このまま触れていたい」
「そう思うのは、どうして?」

意地悪く彼は囁いてくる。どうしても俺から聞き出したいらしい。

「…あなたが好きだから。愛しているから」
「…うん、僕も君を愛しているよ」

嬉しそうに告げられた言葉は熱が込められたようにとても熱い。俺は彼に愛されているのだと改めて思う。彼は俺の思う以上に俺を愛してくれているのだと。
目の前に降りてくる彼の端正な顔を見て、その熱い眼差しを見て、俺はゆるりと目を瞑った。










かわいくなりたくもないくせに、
かわいがってほしいなんておろかです

(俺のことをかわいいなんていう人は、この人だけだ)
2010/08/09 chisa
あまーい。砂吐きそうだ…。毎回ヒバツナの文は似たような雰囲気ですが、今回はいつもより甘く感じます。
WJのあの小動物に触発されて書きました。悔いはない。でも、うちのヒバツナはいつもこんな感じなんですかね…。もっとシリアスなものにも挑戦したいです。 あぁ、語彙力が足りない…文才が欲しいです…。