彼のことを優しいと誰かが言うのだ。
そう、彼は優しい。
とても、優しい人だということをオレは知っていた。
でも、それを知っているのは一握りでしかなくて、
それを解ってあげられる人は数人しかオレは知らなくて、
どこかでそれを嬉しいと思っていた自分がいるのだ。
所謂、独占欲って奴。
知られたくなんてない。自分一人が知っていればいい。
彼が、優しくするのは自分だけでいい。
なんて、そんなことあるはずがないのに。
彼は愛を知らない人だった。
彼は愛しいという感情を知らない人だった。
彼は、一人だったから、何にも知らないで、ここまで来てしまったから、
彼は人に優しくするということも知らない人で、
愛しいと誰かが言っても何それと言う人だった。
オレは彼にいった。好きですと言った。彼はそれは何と聞いた。
―――あぁ、彼は知らないのだ。
オレは彼のことをよく知らないことに気づいた。
彼は無意識だ。彼は気に入ったものに対して無意識に態度を軟化する。
それはほんのちょっとの差だったけれどオレは知っていたし、見たこともある。
彼の側を飛ぶ小さな小鳥に対して彼はほんのちょっと優しいし暴力は当たり前のように振るわない。
女子にだって容赦しないなんて言うけれど、オレは知ってる。
彼はけして女子には本気で殴らないし、痕が残らないように気をつけてるのだって知ってる。
オレは彼と一緒にいたくて、彼の雰囲気が好きで、彼を形成するすべてが好きで、
彼の居場所になりたくて猛アタックして彼の横にいる権利を手に入れた。
彼はいまだにわからないというけれど、
オレは彼がオレに向ける目の温かさを知っているし、
いつだって気にかけてくれていることも、
オレに対しての雰囲気が優しくなったことだって分かっている。
そうなった彼が嫌いなわけじゃなくて、むしろ好きで好きでどうしようもなくなって。
もっと好きになってしまって、独占欲でいっぱいになってしまって、あふれて。
彼にもそうなってほしいなんて思ったけれど、彼らしくないなんて思ったのであきらめた。
…どうしようもなく好きだから、オレは彼の周りにいる人間にいつも嫉妬してしまう。
彼の優しさに触れている人がいるのだ。
彼の不器用な心遣いに、彼のそばにいる人は気づいていて、気づいているからこそずっとそばにいてくれている。
そんな人が彼のそばに居てくれることにありがたみを覚えながらも、オレは嫉妬をする。
オレだけを見てくれればいいのに。
オレだけを見て。優しくして。甘やかして。ずっとそばに居て。
抱きしめて。触れて。愛して。愛して。愛して。
でも、彼にそんなこと言ったことはない。
言ってしまったら、嫌われてしまう。
嫌われてしまうのが怖い。そんな事になってしまったら、オレはどうなってしまうだろう。
死ぬかもしれない。呼吸が止まって死んでしまうかもしれない。
でも、オレだって嫉妬はするし、人一倍の独占欲だってあるし、寂しいなんて、悲しいなんて、苦しいなんて気持ちもあるのだ。
だから、ずっと、ずっとずうっとオレの中にしまっておくつもりだったのに。
オレは、馬鹿だ。本当に救いようのない馬鹿なのだ。
彼に言ってしまった。
オレだけを見て。優しくして。甘やかして。ずっとそばに居て。
抱きしめて。触れて。愛して。愛して。愛して。
―――オレを愛して。
彼は黙ってしまった。彼は、オレを嫌いになるだろう。
こんなオレはいらない。彼にとって必要ないのに。
「やっと言ってくれたね」
その言葉が聞きたかった、なんて。
彼は、何を言ったのだろう。彼はなんて答えた。彼はどういう顔をしてる?
見えない。彼の顔が見えない。どうしてどうしてどうして。
そうして、俺は彼に抱き締められていることに気づいた。
顔が見れないはずだ。
「君が言ってくれないから、僕は、もう君が僕のことを好きじゃないのかと思ってた」
そんなことないのに。ずっと秘めていただけだ。愛してるなんて、彼にはうっとおしいと思ったから。
「愛してるよ綱吉」
彼が耳元で囁く。オレはふにゃふにゃに溶けて、カクンと膝も曲がって立っていられなくなてしまって。
すがるように彼にしがみついた。
「オレも、です」
好きです。大好きです。愛しています。
たくさん、たくさん。
愛をあなたにあげます。
あなたしかいません。
これからもずっと、愛しています。
だから下さい。
愛を下さい。愛してください。あなたを下さい。
今までの思いがあふれてきてどうしようもなくなって、全部全部伝えて、
オレは、彼にいいよあげるって言われて、
彼に愛されているということを、ようやく知ったのだ。
なにも意味はなくたって、君がやさしいとうれしいよ
(だけど嫉妬もするのです)
2010/03/29 chisa
たまにこういうのを書き散らかしたくなります。